女神の加護
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「……確かに、サクヤが襲われるのを見たとき、自分の内側から、何か、熱いものが吹き出してくるように感じました」
ライのこれは嘘であった。
父の思いやりに報いるための嘘でもあったし、自分の正体を見破られないための嘘でもあった。
「……それと同じものを、父さんも何度も感じたことがある。昔、ジュウベエ殿やエドワルド殿と一緒に戦ったときもそうだった」
「そういえば、前からお聞きしたかったのですが、父さん達は戦をしたことがあるのですか?」
この際、もう少しこの世界のことが知りたいと、ライは思った。
「ああ……、二十年ぐらい前にね」
(確か父上は今年で三十四歳だったか……)
逆算すると十三、四歳で初陣を飾ったことになる。
元服前には人を斬っていた雷蔵には、別段何の感想もなかったが、イリスの世界においては、戦に出るにはいささか早い年齢であった。
この大陸が、テクシスリウス王国として統一されてから九百年近くの長い歳月が経っている。
その間に、統一されたと言っても、王国内では何度か大きな戦があった。
それは、王国を打倒せんとするものもあったし、王位継承問題から端を発したものもあった。
領主間での小、中規模な戦も含めると、五十以上の戦闘がこの国では起こっていた。
それ程の内乱がある国が、統一されているとは言い難いのかも知れないが、それでもこの九百年間、王国の名前が変わることはなかった。
カイルの参加した戦争はその中でも、四番目に大きなものであった。
すなわち、テクシスリウス王国とアーサーボルト領の、全面戦争だったのだ。
「その話もまたそのうちにライにしてあげよう」
カイルは自分の両親と祖父を失ったその戦争のことをライに話したくなかった。
だが、将来領主を継ぐことになるであろうライには、いつか話さなければいけないことだと解っていた。
学習院でその概要は教えられることになるだろうが、その戦の最中の出来事については、自分が伝える義務を有しているとカイルは考えていた。
(でも、それは今じゃない)
一度に多くのことを伝えてライが混乱しないように、今日ここで話すのはアーサーボルトの始まりにまつわることだけにしよう、とカイルは決めていたのだ。
「その……父さんやライの中にある不思議な力のことなんだが、イグニスはそれを“女神の加護”と呼んでいた」
「女神……イリスの加護ということですか?」
「そうだろうね。“亜人を護るための力を女神に授かった”とイグニスは言葉を遺している」
「だから、亜人を護るために戦うときに、その力が身体の中から湧き上がってくるんですね?」
「そうだ……。だけど、ライの力はそれだけじゃないと父さんは思っている」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。“輪廻転生”――」
(――!?)
「それが、ライの中に眠っている力の正体だ」
外の雨はいつしか止み、ただ強く吹く風が、嵐の残滓を感じさせた。




