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不可解な成り立ち

いつもありがとうございます。

 

「世界が分かれた原因は、人々が争い合うのをイリスが嘆いたからだと言われている」


 正確には、分かれた原因と言われるものには諸説あるのだが、カイルは最も有力な“イリス正教”の教えをライに伝えた。


「人々の争い……」


「ああ。人と人、亜人と亜人、そして人と亜人……、世界の全てが争いに満ちていたと伝えられている」


(争いが満ちている世界……、まるで俺が生きた世と同じだな……)


 後世において、日本で最も人々が争った時代のことを戦国時代と呼んだ。

 雷蔵が生きてきたのはまさに、その時代であった。


「そんな世界から争いをなくそうと、イリスは人が多く住んでいた大陸と、亜人の多く住んでいた大陸に世界を分けた。人が多く住んでいたのがこちら側の大陸で、亜人が多く住んでいたのがあちら側だと言われている」


(あの女神さんも無茶苦茶するな……)


「大陸が分けられる衝撃は相当のもので、未曽有の大災害が世界を襲ったらしい。酷い地震や津波で、この大陸の多くの命が失われたと言われている」


(争いをなくそうとして、多くの命を奪うか……。そういうことをしそうには見えなかったが……)


 ライの脳裏に無邪気な笑顔で自分の過去の話を聞いてくれた女神の顔が浮かんだ。


「皮肉にも、大陸が分かれたことだけでなく、そのことも争いを減らすことにも繋がったらしい。だが、根本的なところで、世界は変わっていなかった」


 カイルは悲しそうに目を伏せた。


「数年後、ようやく災害の傷が癒えたかとどうかというところで、ある国がある国に攻め入った。それから、連鎖的に戦争が起こり、再び、半分になった大陸をめぐって戦争が起こったんだ。この戦争は“統一戦争”と呼ばれている」


「統一戦争ということは、テクシスリウス王国が天下を取ったということですか?」


「……天下という言い方はあれだけど、そういうことだね。ライは本当に察しがいいね」


「いえ、そんな……」


 雷蔵は、鎌倉や室町の盛者必衰の流れについて、知識として一通り頭に入っていた。


「この統一戦争の折、虐げられていた亜人を一つにまとめ、後のテクシスリウス王国を共に作り上げることになる三人の男達がいた。一人は後に初代国王になる、エドウッド・テクシスリウス。もう一人は亜人の代表として、全ての亜人を率いた竜族の戦士、ガイストス。そして最後の一人が、人と亜人が共に戦うように結びつけた、僕たちの祖先、イグニス・アーサーボルトだ」


「結びつけた?」


「そう。それまでは、人と亜人は互いを拒絶していて、とても手を取り合って一緒に戦える関係ではなかった。それを実現できたのは、イグニスを始めとする当時のアーサーボルトに所縁のある者達の尽力のおかけだとされている」


「アーサーボルト家にはそれだけの影響力があったということですか?」


「……今更だけど、“影響力”なんて難しい言葉を知っているね。お母さんとの勉強はそんなに進んでいるのかい?」


「あっ……はい、そうです」


 執務で忙しいカイルは、リースとライの勉強の様子をあまり知らない。

 リースとの夫婦の会話で、少しは把握しているが、それでも六歳でここまでちゃんと話すライに、カイルは改めて驚いていた。


(やはりライは“そういう使命”を持って生まれたのかもしれないな……)


「そうか……」


 息子の背負っている運命をこれから口にすることが、カイルにはとても辛いものだった。


「父さん?」


「いや、何でもない。影響力の話だったね。あったと思う。何故なら、その当時イグニス・アーサーボルトは何処かの国の王様だったからね」


「イグニスが殿さ――、……王様だったのですか?」


「ああ。最もどういう国だったかは詳しくは判っていない。領土もここではなかったみたいだし、国の名前が“アーサーボルト”だったのかも判っていない。イグニスが辺境伯を拝命した折りに、それまでのアーサーボルトに関する歴史を全て抹消――消して無かったことにしてしまったらしい。それまでにもかなりの歴史があったはずなのに、だから彼が初代なんだ」


「何でそんなことを?」


「判らない。イグニス以前のアーサーボルトに関する資料だけは、何処にも残っていないんだ。大災害に巻き込まれて消失したのか、それともイグニスが処分したのか、あるいはその両方か……。もしかしたら、分かれてしまった大陸の方に国があったのかもしれないっていう学者もいる」


「学者が研究しているんですか?」


「ああ。自慢じゃないが、歴史学者にとっては僕達の家は有名なんだよ。時々、話を聞きにきたり、家に関する資料が仕舞ってある書庫を見せてくれないかと、偉い先生が訪ねてくるぐらいだしね」


「へえ」


 六年過ごしても気付かなかった家の事情に、ライも興味が惹かれた。


(立場や裕福であるのは知っていたけど、そんな由緒ある家だったとはな……)


「まあ、その辺りのことはもう少し大きくなったら改めて話してあげるよ。それより、ここからが本当にライに伝えたかったことなんだ。父さんが最初に話した、アーサーボルトの家訓は忘れてないかな?」


「ええと、確か“アーサーボルトに生まれた者は、亜人と共にあり、互いに護り合い、互いに助け合い、いつか人と亜人を繋ぐ架け橋とならん”でしたよね?」


「そうだ。……一度聞いただけで覚えるなんて凄いな。父さんは何度か紙に書いてやっと覚えたのに」


「そんなことないですよ」


 ライは褒められたことが嬉しいという演技をした。


「いや、凄いよ。ライは本当に賢い子だ。……その言葉なんだが、意味は解るかい?」


「ええと、亜人仲良くするってことですか?」


 今更のような気もするが、あまり警戒されるのは得策ではないと、ライは子供らしさを見せながら尋ねた。


「そうだね。もちろん亜人だけではなく、人とも、他の動物とだって仲良くしなくちゃいけないよ?」


「はい!」


 前世で散々人を斬った戦人は、素直な少年の顔をして頷いた。


「良い子だ。ただ、僕たちアーサーボルトはね、少し特別なんだ」


「特別?」


「そう。アーサーボルトに生まれた、その血を継ぐ者は、亜人の為だったら凄く強くなれるんだ」


「……本当ですか?」


 いきなり、何を荒唐無稽なことを言い出しているんだ、とライは思った。


 あまりに子供じみたカイルの言葉に、思わず演技を忘れたほどだ。


「本当だよ。ライも感じただろう? 今朝サクヤちゃんが襲われたときに……」


「……」


 カイルが、今までの一連の話で何を自分に伝えたかったのか、ライはやっと察することが出来た。

 人を殺したのはその血に依るものだ、と伝えようとしているのだ。


「だから、あんなことがあっていろいろショックを受けたと思うけど、父さんはライがしたことは正しいことだと思っている。こういう言い方は間違っているのかもしれないけど、ライはアーサーボルトとして、父さんの息子として正しいことをしたんだ。僕はライを誇りに思うよ」


 突拍子もなく、雷蔵としての自分からすると常識外れの話ばかりだったが、カイルは、父親として、初めて人を殺した自分むすこを心配して、その罪悪感を少しでも軽くしようとしているのだと、ライはやっとこの時察することが出来た。


 もっともそれは――


(人を殺すということが、親父殿には相当重いことのようだな)


 人斬りには無用の配慮であったが……。



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