長い夜の始まり
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医者に診てもらったサクヤは、ライが見立てた通り、骨折などの深刻な事態にはなっていなかった。
「ただ、頭部を殴られたことが心配なので……」と最低でも一週間の安静を義務づけられた。
その診断で、ようやく落ち着きを取り戻したジュウベイは、ライが対応に困惑するほどの感謝の気持ちを伝えてきた。
前世では子を持つ親だったこともある雷蔵には、その気持ちがある程度は理解できたが――
(それにしても、ここまで……)
普段の朴訥としたジュウベイを知っている分、今目の前でライの手を握りながら、大喜びで感謝を伝える姿は、いささか以上に意外であった。
側にいたアリスなども目を丸くしていたが、案外家の中ではこんな感じなのかもしれないな、とライは思った。
かつての、“戦場に敵なし”とも言える強さを持った自分が、家の名かでは千草の尻に敷かれていたのを思い出し、ライは思わず苦笑をこぼした。
日が沈み、嵐もだいぶ収まった頃、ライはカイルの書斎にいた。
夕食後、まだ意識が戻っていないサクヤの側に着いているときに、カイルからの呼び出しがあったからだ。
以前の様に向かい合って座る二人ではあったが、ライにはカイルの表情が、並々ならぬ決意の色に染まっていることに気付き、この先に、きつい戦いが待ち受けていることを覚悟した。
(そういえば、親父殿に叱られるのは初めてであったな)
基本手がかからず、分別を弁えているライが、誰かに叱られるということは、この世界に来て、カイルに限らずこれが初めてであった。
(母上も来るのだろうか? また、泣かれなければ良いのだが……)
ライしているそんな心配をよそに、カイルの第一声はこうであった。
「ライには辛い話になるかもしれない。全てを知ったあと、違う道を歩んでも良い。だがまずは、最後までお父さんの話を聞いてほしい」
(ん――?)
それは、ライが予測していた第一声とは、まったく違った言葉だった。
「ライにはまだ解らない、難しい言葉もあるかもしれないが、それはその都度父さんに訊いてくれて構わない」
「父さん? 何を――」
「これからライに話すのは、僕たちアーサーボルトの血統を継ぐ者の義務と使命、いや、その宿命についての話だ」
遥か天上の世界で、イリスと呼ばれる女神が、そっと目を閉じた。




