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極致に至った者

いつもありがとうございます。


私事ですが、ここから先の数話を書くのにかなり難儀しています。


面白いと思っていただけると嬉しいのですが……。


まずはその前にこちらをよろしくお願いします。

 

 その後のことを、カイルははっきりとは覚えていなかった。

 身体を濡らす雨の冷たささえも気にならなかった。

 息子が、六歳という若さ――いや、若いなどと言うことさえ表現としてどこか間違っているような年齢で、人を殺めたということに、父親として深い衝撃を受けていたからだ。


 だが、領主としてのカイルはとても優秀な男だったため、我知らずとはいえ、事態を収拾させるために下した指揮は間違ったものではなかった。


 サクヤとジュウベイ、そしてライを屋敷に帰らせ、使用人の一人を医者へと遣いにやった。

 さらに、警備隊と、そこに走ったリンドに事情を説明するため、数人を隊舎へと差し向けた。

 残った使用人たちには、リースへの事情の説明と、腕に覚えのある者には屋敷の警備を頼んだ。

 カイル自身は、ジュウベイの共をしてきた数人の鬼を連れて、ライが戦った現場へと赴き、男達の死体を確認した。



「……」


 死体と辺りの検分を終えたところで、カイルも鬼の戦士達も、その、静かに死が満ちている空間に違和感を感じ、言葉を失っていた。


(ここは……何だ? 本当にここでライが戦ったのか?)


 少し離れた所に、馬が暴れた形跡と、サクヤが倒れたような跡は確認できた。

 だが、それだけだった。


 死体の周り――ライが戦ったであろう地点――そこには、何もなかった。


 いや、間違いなく三つの死体はそこに存在していた。

 だが、ただそれだけだった。


 そこには、人が争った形跡というものが一切なかったのだ。


(ライが背後から奇襲した? いや、それにしてもこれはおかしい)


 遺体のどれもが、腰に佩いた剣に手もつけずに死んでいた。


(一人を奇襲で殺せたとしても、後の二人がそれに気付き、対応していたはずだ)


 死体の様子と、それぞれの位置関係にしても、奇襲を用いてのものだとは思えなかった。

 だが、カイル達が何度念入りに確認してもその場には争った形跡は一切なかった。


 そしてカイルは、先程ライの身体に外傷がないことを確認していた。


(六歳の子供が、相手に攻撃されることもなく、この男達を一瞬で殺した? そんな馬鹿なことがあるか!)


 カイルはいくさを知っている。

 戦い、殺し合い、命のやり取りというものを知っている。


(それは……こんな静かなものじゃない。こんな……綺麗なものじゃない)


 泥を蹴って、お互いの身体に余計な傷も作って、必死に、全身全霊を賭けて相手を倒す――それこそが命のやり取り。


(こんな……何もなかったような……、まるで……死体だけをその場に置いたような、こんな戦場はありえない!)


 仮にこれが一流の暗殺者の仕業だとしても、これほどまでの手練れがいるとは、カイルの過去の経験に基づいても信じられなかった。


(これではまるで……)


 雨粒ではない冷たい雫が、カイルの背筋を流れ落ちていった。


(人を殺すという技術の、一つの極致――芸術的なまでの殺人術の到達点を見ているような……)


「……」


 カイルはそこで、何を馬鹿な、と首を振った。

 そして、それ以上、考えることを止めた。


 怖かったのだ。

 “疾風迅雷”のカイル・アーサーボルトをして、これほどの技量を持つ戦士がいるということが――しかもそれが、まだ六歳になったばかりの自分の息子なのだということを、これ以上考えることが怖かったのだ。


 もし、これ以上深く考えてしまうと、自分の息子が、まるでそれ以外の、未知な何かに見えてしまいそうで、カイルは反射的に、半ば無意識的に、この疑問から目を背けた。


 それは、領主としては、事態の把握を怠ったということで間違っていたが、父親としては正しかったのかもしれない。

 自分の息子が、もしかしたら人殺しに長けているかもしれないなどと、しかもそれが、他に類を見ない圧倒的なまでの才能かもしれないなどと、どこの世界の父親が思うだろうか。


(どこの、世界の、父親が……)


 〝お前には才能がある〟


 その時、不意にカイルの脳裏に、死んだ父親の声が響いたような気がした。


 〝たとえ死んだとしても――〟


 その声に導かれて、浮かんできたイメージは、今カイルが使っている書斎で、生前の父と会話したときの光景だった。


(今のは確か十歳のときの……)


 それまで、心の何処かに引っかかってはいたが、意味を成さなかった言葉の数々が、急に姿を現してきた。


 〝輪廻転生する〟


 一つに繋がり、意味を持った。


「まさか――」


 その時、フッと天啓を得たかのように、ある仮説が、カイルに浮かんだ。


 リンドに連れられた警備兵達がやって来たのは、それから数分後のことだった。


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