非力である、ということ
総合評価のポイントが100を超えました。
これもいつも読んでくださっている皆さんのおかげです。
仕事の都合で更新時間が安定しませんが、一日一話更新はなるべく続けていきたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。
「大丈夫か? サクヤ」
ライは倒れていたサクヤに近づき、その安否を尋ねる。
サクヤの身体を抱え、優しく気遣いながら、怪我の程度を確認していく。
(ライ……)
三人の男達が一瞬で倒されたのを、サクヤは何処か夢のような感覚で見ていた。
そんなことよりもとにかく――
(無事、良かった……)
それだけがすべてだった。
身体中が痛みによる熱に冒されていたサクヤは、ライが近くにいてくれる安心感に満たされたまま、意識を手放した。
「……良かった」
一方のライもサクヤの無事を確認し、安堵していた。
サクヤの怪我は、腫れは酷いものの、骨折などの深刻な事態にはなっていなかった。
サクヤの上半身をゆっくり下ろすと、ライは近くで倒れていた禿頭の男に近づいた。
そして、その目の中に指を入れ、三人の男の命を奪った何かを引き抜いた。
それは――五寸釘であった。
以前、ヴィクトリアとアイの為の贈り物を買おうと入った店で、ライが手に取っていたあの五寸釘だった。
ライはそれを、後日、サクヤの誕生日プレゼントを買うために再度来店した際、一緒にいたアリスに悟られないように、屋敷に必要だった他の日用品に紛れ込ませて、密かに購入していたのだ。
ライは釘に付着していた肉片と血を雨で洗い流すと、左腕に仕込んでいたお手製の皮鞘にそれを戻した。
馬が人の移動時間を縮めるように、自分の筋力の未熟さを理解したライは、それを埋める為の武器を欲していた。
非力な者でも、それを補う武器さえあれば、戦場で力が発揮出来ることをライは知っていた。
名もない足軽が、種子島を手にした途端に手強い射手に変わる――そういう時代を、雷蔵は生きてきたのだ。
武器を欲していたが、さすがにカイルに言っても何も預けてはもらえないだろう、と思っていたライは、あの雑貨屋でこれを見つけた。
自分の小さい手であれば、この五寸釘を寸鉄代わりに使えるだろうと見当を付けたのだ。
この大きさなら、隠し持つのが容易いことも手に入れる後押しになった。
その後のサクヤとのやり取りで、再びこの店に来られる算段もついたライは、しばらくして、無事にこの釘を手に入れた。
あとは屋敷にあった適当な材料で腕に仕込めるようにし、入浴の時以外は肌身離さず、これを携帯していた。
(平和な世界だが念のため、とこれを手に入れていたのは運が良かったな)
そうでなければ、こんな男達でも殺すのに苦労しただろう、とライは思っていた。
事実、屋敷からの全力疾走で足と体力を大きく消費し、戦闘による筋力の行使で腕は重くなっていた。
(実際に殺し合いをすると、今の自分の弱さがよく解る……)
ライは、もうこの世界が、平和に満たされた世界でないことを知っていた。
(このままじゃまずいな……)
ライは、自身の気の苛立ちを感じながら、サクヤを背負って屋敷の正門に向けて歩き出した。