その宿命をまだ知らず
いつもありがとうございます。
今回からR-15に該当するシーンが登場します。
よろしくお願いします。
それは夜が明けてからすぐのことだった。
(――ん? 誰だ?)
ライは、何者かがこの屋敷を窺っている気配に気付いた。
静かにベットから出ると、窓際に身を潜め、外の様子を探る。
二階にあるライの部屋から、広い庭を挟んで立てられた塀のさらに向こう――小さな民家の裏からこちらを見ている男達がいた。
(三人……か)
遠くてはっきりと顔までは見えないが、雨の中、こちらに向ける険阻な雰囲気は、雷蔵が前世で幾度となく感じたことのあるものだった。
(ここを襲うつもりか?)
宿場町に泊まったときなど、襖の向こうから、このような気配を感じることがあった。
そして、その後は大抵人を斬ることになった。
(……いや、いくら早朝の奇襲とはいえ、たった三人でここに攻めるなど考えにくい。ならば目的はこの屋敷から出てきた誰かを襲うことか?)
そうすれば、襲った誰かを人質に次の一手を打つことも可能、とライがそこまで思い至り、さらにはその他の可能性もいくつか思い浮かんだところで、一つの疑問が持ち上がった。
(はて? もしあの男達が親父殿の言っていた「領内に入り込んだ危ない大人」だとして、何故この屋敷を窺う必要がある?)
ライはまだ、亜人狩りのことも、この世界に蔓延る問題についても何も知らされていない。
ライが生まれたアーサーボルトという家の宿命もまだ知らなかった。
(……まあ、いい。誰かが襲われでもしたら大変だから、とりあえず親父殿に報告しておくか。だが……)
どうやって怪しまれずに伝えようか、と思案を始めた矢先、その姿をライの視線が捉えた。
男達の背後――隠れている民家の横を一直線に走る石畳の道路を、馬に乗ってこちらに向かってくる、サクヤの姿を。
何故、どうしてここにサクヤが、と考える前にライの身体は反射的に動いていた。
音を立てずに窓を開け、サッと飛び降りたかと思うと、着地の衝撃を膝のクッションと前転で逃がし、その勢いのまま庭を横断するように走り出した。
途轍もなく嫌な想像がライの頭の中に浮かんでいた。
その視線の先で、馬の蹄の音に気付いた男達が振り返った。
それを見た瞬間、ライの中で、人斬りの本能が警鐘を鳴らした。
ライはもっと速くと、足に力を入れるが、六歳児の走力には限界があった。
ライの目の前で、サクヤを乗せた馬の前に男達が飛び出し、驚いた馬が棹立ちになった。
サクヤは突然のことに対応出来ず、馬から振り落とされてしまった。
身体を地面に強かに打ち付けたサクヤに、男の一人がすぐさま身を寄せ、何事か囁いたかと思うと、まだ痛みで状況を把握できてないサクヤの髪を掴んで持ち上げ、その顔を思い切り殴りつけた。
「――!!」
バシャンと、サクヤの身体がもう一度地面に打ち付けられた。
男の一人がさらに痛みを与えようと、足を振り上げたところで――
『待たんか、貴様ら』
塀を跳び越えたライが、その姿を現した。
今回から『』の中の会話文は、基本日本語になります。
《イリス》には存在しない言語なので、ライ以外には意味が解らないという設定になります。
この辺りは次話で描写しますが、取り急ぎお伝えしておきます。
よろしくお願いします。