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凶報

本当は明日投稿する予定でしたが、初めて感想をいただけたのが嬉しすぎて、久しぶりの一日二話投稿です。


ブックマーク登録も29件もいただき、本当に嬉しい限りです。


これからもよろしくお願いします。

 

 ライが六歳になるその日は、夜半から続く雨が、ますますその雨脚を速めたところで夜明けを迎えた。


(静かだな……)


 例年であれば、一緒の部屋で朝を迎える二人の幼馴染みのことを考えながら、ライは窓の外の雨を見ていた。


(……この世界は平和だと、思い込もうとしていたのかもしれないな)


 昨日のカイルの話が思い出された。

 そう考えると、ライには納得出来ることがあった。


 カイル、エドワルド、ジュウベエの戦士としての高い力量――あれは戦で磨かれたものだったのだ。


(あの腕前に至るには、人を殺した経験がなければならんからな……)


 それも十や二十ではないことに、雷蔵としての自分は、気付いていた。

 気付いていたのに、そこより先を考えるのを止めていた。


(まったく……なまくらになったものだ)


 イリスさんの意図には気付いていたのに、とライは自嘲の笑みを浮かべた。


「儂が必要とされる世界に、戦がないわけがなかろうよ……」


 雷蔵がそう言って笑った。

 その様子は、少し、寂しさを感じさせた。


(――ん? 誰だ?)





 凶報は、雨がさらに強まり、豪雨となった時にもたらされた。


 人々が起き始める朝、カイルの屋敷の扉が、ドオン、と乱暴に開かれたか思うと、全身を雨に濡らしたジュウベイと数人の鬼の男たちが飛び込んできた。


「アーサーボルト! 娘、サクヤ、来ているか!!」


 それは確認というより、そうあってほしいという願望に聞こえた。

 その声は切迫していて、余裕というものが一切なかった。


「どうしました!? ジュウベエ殿!」


 その音と声に反応し、慌てて出てきたカイルは、普段冷静なジュウベイが、それを失っているのを見て、直感的に深刻な何かがあったと察していた。

 カイルの後に続いて出てきた、リースや屋敷の使用人達にも深刻な事態であることは窺い知れた。


「娘、里から、居なくなった! お前の、手紙、読んで、警告した。外に出るな、と。そしたら、ライの、誕生日、祝うと言って……馬、乗って、飛び出した」


「――なっ!?」


「来てないか!!」


「……来ていません」


「そうか……」


 普段の、武人然としたジュウベイはそこになく、ただ娘の無事を祈る一人の父親がいた。

 カイルがジュウベイのそんな姿を見るのは初めてだった。


 数日前にカイルは亜人狩りについての警告を、領内の顔役に手紙で発していた。


(それがまさかこんなことになるとは……)


 カイルは自分の見通しの甘さと、サクヤという少女の行動力を見誤っていたことを悔やんだ。


「――と、とにかく、サクヤちゃんを探しましょう! 街に来ていることは間違いないのですか?」


「それは、間違いない! 入口の警備隊、サクヤ見た、と言った! 俺たちが、来る、少し前!」


「わかりました。こちらからも警備隊に連絡を取って探させます。リンド! すまないが、隊舎まで頼む」


「かしこまりました!」


 ホビットのリンドが飛び出していく。


「リース、アリス! きみたちはここに残って、サクヤちゃんが来たら保護してくれ!」


「わかったわ!」


「かしこまりました!」


 アイを抱えて、カイルの隣に控えていたリースと、アリスが応える。


「他の者は、屋敷周辺を探してくれ!」


「はっ!」と、数人の使用人たちが慌ただしく外へと走る。


「ジュウベイ殿! 僕たちは警備隊と一緒に街中を探しましょう!」


「すまぬ。感謝を」


「いいんです。当たり前のことです」


 カイルとジュウベイが頷きあう。

 かつて、戦場で轡を並べた二人の間には、確かな信頼があった。


「リース」


「はい」


「子供たちを頼む。特にライは、大事な友達のことを心配するだろうから」


「わかったわ」


 カイルは一つ頷くと、ジュウベイ達を連れて屋敷を出て行った。


「……」


 その後ろ姿を、リースは心配そうにずっと見つめていた。


「奥様……」


 隣のアリスも不安を隠せていなかった。


「……アリス、ライを起こしに行くわ。サクヤちゃんなら、もしかしてライを驚かせようと忍び込んでいるかもしれないしね」


「あっ! そうかもしれませんね!」


 緊張を和らげるためにそう言ったリースだったが、意外とその可能性が高いことに気付いた。

 夜の間に忍び込んで、二人で一緒にまだ眠っているのかもしれない、と。


(そうであってほしいわね、そのかわり――)


 そのときは思いっきり叱ってあげなくちゃ、とリースが心に決めたところで、二人はライの部屋の前に着いた。


「ライ、入るわね」


 トントンと、ノックをして扉を開けると――


「……ライ?」


 その部屋の中には誰もいなかった。                            

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