妹
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《イリス》にも四季があり、ライの母親――リースが第二子を出産したのは、サクヤの誕生日から約一月後の、冬の訪れを感じさせる肌寒い夜のことだった。
数時間前に破水したリースは、今寝室で出産に励んでいた。
付き添うのは、ライの時と同じくカイルとリースで、出産を担当する産婆も同じ女性だった。
ライは四歳になったときに与えられた自分の部屋で、ただ静かに母と産まれてくる弟妹の無事を祈っていた。
前世では母の身体の事情もあり、一人っ子だった雷蔵にとって、初めての弟妹だった。
だが、妻の出産には幾度か立ち会ったことがあったので、ライは落ち着いていた。
(こういう時は男はただ黙って待つしかない。今頃父上もそうなのだろうな)
リースが出産を終えたのは、窓から見える遠くの空が、わずかに白んできた頃だった。
カイルに寝室に呼ばれ、初めて妹と対面したライは不思議な幸福感に満たされていた。
しわくちゃの小猿のような顔をした女の子だったが、とても可愛らしく見えた。
自分の血を分けた我が子を見たときともまた違う、自分と同じ血を持つ存在に初めて出会った瞬間だった。
アーサーボルト家の長女は“アイ”と名付けられた。
「うわー、かわいい」
「すごく、かわいい」
涎掛けを一緒にプレゼントしようと集まった、アランドルとサクヤではあったが、肝心のことはそっちのけで、アイに夢中だった。
生まれてから一週間経過し、顔立ちがハッキリしてきたアイは確かにライの目から見ても可愛かった。
「おいおい。あまりうるさくすると起きてしまうぞ」
今は大人ぶって落ち着いているが、皆がいないところではアイにデレデレなライであった。
「かわいい」
「かわいい」
「わかったから、少し離れろ」
「ふふふ」
そんな子供達の様子を見て、リースは微笑む。
リースは自分の息子が娘に夢中なのを知っていたからだ。
普段は大人びているが、こういう背伸びをして大人ぶっている息子を見るのは珍しく、それがたまらなく愛おしかった。
「それより、早く渡すぞ。母さんも疲れてるんだから」
「わかったー」
「わかった」
そう言って三人がリースに渡したのは、以前買った涎掛けだった。
包装してもらい、ずっとライの部屋にしまってあったのだ。
「うふふ、何かしら。……あら、すごく可愛い涎掛けね。さっそくアイに着けてあげましょう」
実はリースはこのプレゼントのことを知っていた。
カイルもアリスもずっと内緒にしていたのだが、先日リースがアイに涎掛けを着けようとしたときに、アリスが慌てたことが原因でライ達の計画がばれてしまっていた。
だが、その気持ちがとても嬉しかったリースは、今初めて知ったかのように振る舞っていた。
ライはそれに薄々気付いてはいたが、子供は親に隠し事できないものだ、と笑って受け入れていた。
それに大事なのは、ここにいる皆の気持ちであって、真実ではない。
それになにより――
「かわいい」
「かわいい」
「……可愛い」
「うふふ」
涎掛けを着けた妹は可愛いのだから、とライは思った。