ゆっくりと、すこしずつ
サブタイトルと、自分の創作に対する心境がかけてあったりします。
ゆっくりと、少しずつ進んでいくこの物語をどうぞよろしくお願いします。
アランドルには二歳年上の姉がいた。
初めて出会ったのはライたちが三歳のときで、名をヴィクトリアと言った。
とても綺麗な少女で、ライが今まで出会った子供の中で一番美しかった。
生まれながらにして身体が弱く触れただけで壊れてしまいそうな、ガラス細工のような華奢な身体をしていた。
普段はライにべったりなアランドルだが、自宅にいるときは姉に甘えているようで、ヴィクトリアの傍から離れようとしない。
その分サクヤがライを独り占めできるので、アランドルの家に遊びに来るのをサクヤは密かに楽しみにしていた。
初めてあったときにライがヴィクトリアに見とれているのを感じたときは、頬を膨らませて拗ねていたが……。
「こんにちは、二人とも。今日も遊びに来てくれてありがとう」
同年代と満足に外で遊ぶこともできないヴィクトリアは、家の中で一緒に過ごせる二人の訪問を、アランドルよりも楽しみにしていた。
特に弟と同じ歳には思えない大人びたライとは話も合い、本の貸し借りをしたりして、友情を深めていった。
初めてのヴィクトリアの出会いから一年と少し経ったある日、アランドルとサクヤがライの家に遊びに来たとき、アランドルが興奮したように話し始めた。
「もうすぐおねえちゃんのたんじょうびだから、なにかプレゼントがしたいんだ!」
「……それはいいな」
去年までは自分も一緒に誕生日を楽しむだけだったのにアランドルが、少しずつ大人になってきているな、とライは嬉しく思った。
「ヴィクトリア、わたしもともだち! わたしもなにかおくりたい!」
サクヤも楽しそうなことを見つけたように大はしゃぎだ。
「それでね! それをおとうさんたちにもないしょにして、みんなをびっくりさせたいんだ!」
「たのしそう!」
アランドルとサクヤが二人揃って、キャイキャイと騒ぎ始める。
昔はよくケンカした二人だったが、一緒に多くの時間を過ごす内に今ではすっかり仲良くなっていた。
「どうせなら三人で何か一つのものをあげないか? 俺ももうすぐ弟か妹が産まれるから、そのお祝いも三人からってことで、一緒に考えてくれると助かる」
「それいいな!」
「さんにんでプレゼント、ヴィクトリアとライのきょうだいにあげるー!」
「ありがとう」
二人の真っ直ぐな心根が、たまらなく愛おしいライであった。
「なにをおくる?」
「うーん……」
二人にとって誕生日プレゼントといえば、好きな料理だけが並んだ夕食と、友達が家に泊まってくれる日という認識しかなかった。
「はなは?」
「はなかあ。……はなはいつもボクがあげているから、もっとめずらしいものがいいな」
「ではなに?」
「うーん……、むしはおねえちゃんにがてだからなー」
「あたりまえ! むしなんて、おんなのこはよろこばないよ!」
ライはアランドルに捕まえた珍しい昆虫をあげたり、サクヤに花を贈ったりしたが、去年までの二人には誕生日にプレゼントという発想自体がまだなかった。
「ライはなにかある?」
「やっぱり街のお店で何かを買うのが良いんじゃないか?」
「でも、びっくりさせたいからおとうさんたちにはいえないよ……?」
「こどもだけでまちにいくの、ゆるしてもらえない……」
それぞれが有力者の子供であるため、安全のために、未だに三人が一緒に遊べるのは、それぞれの家の敷地内だけだった。
それぞれが一人でいるときにも、家の敷地外に出られるのは大人と一緒のときだけだ。
ライにはその配慮が理解できたが、アランドルとサクヤはそれを少し不満に思っていた。
「アリスだけには事情を話して助けてもらおう」
ライとアリスは最近時々出かけるので大丈夫だと思っていた。
「うーん……。でもなー……」
「この際仕方ないさ。それに何かを買うなら、お金も貰わなくてはならないだろ?」
「あっ! それもあった!」
「どうする? おかねなんて、わたしもってない」
「ボクもないよう。どうする?」
「その辺りは俺に任せろ。ただ、今日はもう遅いから、また来週みんなが集まった日に出かけよう」
「わかったー!」
「さすがライ。たよりになる」
二人が帰ってから、ライはまずカイルに事情を話した。
さすがにアリスにお金を貰うわけにはいかなかったし、アリスと街に行くにも父の許可がいるからだ。
アランドルには悪いと思ったが、事情を説明すればカイルが味方してくれることをライは知っていた。
予想通り、友人の愛娘と愛する妻と産まれてくる子供のため、そしてなにより最愛の息子の頼みとあってカイルは二つ返事でこれを了承した。
アリスを呼び、ライ達の願いを話すと、いくらかのお金をお小遣いとしてアリスに預けてくれた。
そして一週間が過ぎ、三人とアリスは街へと買い物に出かけた。