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異世界で 腐りもの


 魔王の居城は、大抵のものが腐っている。

 草木は枯れ果て、腐敗した沼地のそばに髑髏とか転がってる。

 魔物さんも腐ってる方が多い。

 僕とミフユさんは厨房に足を運び、そろってため息をついてしまった。

 肉に魚、穀物、果実類も全滅だ。


「食べられそうなもの、ないですね……」

「食材を買い足しても買い足しても、腐らせちゃうの。どうしてかしらねぇ」

「どうしても何も、ここが魔王のお城だからですよ」

「魔王さんのお家は、空気の通りが少し悪いみたいね」


 少し悪いどころではない。完全に淀んでいる。

 普通の人間が入ったら、即死レベルの瘴気が漂っているのだけど、僕とミフユさんは平気だ。なぜなら、転生イージーモードで最強だからだ。

 でもお腹は空く。

 いちいち下界に降りて、食事をしなきゃいけないのは面倒である。


「まぁ、仕方ないです。お腹も空いたし、街の食堂にでも行きましょう」

「ミチトちゃん、外食ばかりじゃ体によくないしねぇ、困ったわ」


 憂いげに片頬に手をあてているミフユさんは、僕のお母さんのような口ぶりだが、明らかに年下だし僕の身内でもなんでもない。

 魔王城ではじめて会ったのだ。

 ミフユさんがなぜここに来たのか、ここにい続けているのかも謎である。

 メイド服を着ているから、給仕の職に就いていて、間違えて魔王城に就職してしまったのかもしれない。

 なぜかスベテさんのことだけは、魔王さんって呼んでるし……

 もしかして、魔王というのが苗字か何かだと思ってるんじゃあ。


「あ、そうだ、いいこと思いついたわ」


 おもむろに、ミフユさんが両手をぱちんと合わせた。



 ミフユさんと僕は研究チームを結成した。

 二人して白衣をまとい、長期間に渡って厨房にこもった。

 下界で調達してきた豆を一晩水に漬け、鍋で何時間もぐらぐらと煮込み、用意したわらの上部と下部を縛って、一本一本を丁寧に折り返したものを大量に作成した。

 その束ねたわらを更に煮たあと、豆を投下する。

 失敗に失敗を重ねた。

 僕は弱音を吐き、スベテさんは「キミらは一体何をしているのだ?」と高慢ちきに冷たい視線を投げ、配下の魔物さんたちはキシャーとか言ってた。

 何日にも渡る飢餓は、狂いそうなほどに苦しかった。僕は悶絶した。お腹が空きすぎて、腐った肉に手を伸ばしてしまったこともある。

 スベテさんがわざと近くで、高級料理のフルコースをレトちゃんと食べていた。

 惨めになって、涙すらこぼれた。

 修羅場だった。

 しかし、ミフユさんは諦めなかった。


「できた……今度こそ、成功よ……!」


 縛ったわらの中をのぞき、ミフユさんは笑顔を見せてきた。


「とうとう、僕ら、やったんですね!」

「ええ、長かった……ここまでたどりつくのに、一体どれだけの犠牲を払ってきたことか」


 おもに僕が。

 騒ぎを聞きつけてか、スベテさんも、厨房にやってきた。

 僕らの頑張りを称えてくれるに違いない。

 誇らしい気持ちで、僕は胸を張っていた。


「どうですかスベテさん、僕ら、納豆の培養に成功しましたよ!」

「はん、醤油はどうした。それに、納豆に白米は必須であろう! 白米農家を作ってから胸を張れ!」


 スベテさんは吐き捨てて去っていく。どこか拗ねているような感じだった。

 がっかりだ……

 僕は、その場に膝をがくりとついた。


「せっかく納豆を作れたのに……」


 ぽん、と優しく肩に手を置かれた。ミフユさんだ。すっごい笑顔だ。


「大丈夫。私たち腐蝕に勝ったのよ。まだまだ頑張れるわ」

「ミフユさん」

「つぎはチーズ作りよミチトちゃん!」

「はい!」


 ……僕たちは、一体どこへ向かおうというのだろう。








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