異世界で コタツ
いつもの和室。いつもの魔王城。
しかし誰がやったのか、いつの間にかちゃぶ台がコタツに様変わりしている。
嫌いじゃないけど、うん。
「フン。まったく……いつ見ても忌々しい部屋だ」
コタツに入って、漫画を描いてごろごろしていたところに、スベテさんがやってきた。
「荘厳であるべき我が魔王城に、これほど軟弱な部屋があるのは許しがたいな」
「コタツ、気持ちいいですよ。入りませんか?」
「……フン」
「温かいですよ」
スベテさんは、しばらく黙りこくる。
数秒、迷ったような素振りを見せて。
「まあ、入るが」
もたもたとコタツに入ってきた。
「いつも、魔王のお仕事お疲れさまです」
「……いや、地上侵略は楽しい。それに私魔王だし。魔王が疲れを覚えるはずなど……」
机にあごをついて、長い髪はふんわりと膨らんでいる。
「うー……魔王だぞ私は……疲れない……ねむくない……」
やっぱりちょっと疲れているらしい。
最近は、悪魔系の魔物が無秩序に人を襲っているらしくて、その事後処理に日々追われている。僕もできるだけお手伝いはしたけれど、彼女も魔王として大変なのだそうだ。
「いいこいいこ」
「あうっ……」
頭を撫でたら、飛び跳ねるように逃げられてしまった。
「な、何をするんだキミは!」
「え、い、いえ、そんなに深い意味はないですけど」
「まったくぅ!」
角をふんふんっ、と振りながら怒られてしまった。
「き、君たちと話していると私は惰弱になってしまう! キミたちは、そんなに元の世界のまったり感が恋しいか!」
「少なくとも、僕はこうしていると、幸せです」
彼女は怒りにまかせたように、ぐわっと、テーブルの上の果実を掴んだ。
「スベテさんがいて、ミフユさんがいて、レトちゃんがいて。たまにヒミリアさんも。そんなこの部屋が宝物です」
「……な、なんなんだキミは、純粋か」
「僕も自分の力をつかって人助けをしたりするのは、それはそれで好きですけどね。やっぱりそればっかりじゃ疲れちゃうので」
「……」
スベテさんは、果実をぱくぱくと食べていた。
「僕らがこうやって集まれるのも、スベテさんのおかげです。ありがとうございます」
僕たちには、それぞれの生活がある。
だというのに、気軽にみんなが集まれる場所を作れるのは、やっぱり魔王城の転移施設でもなければ不可能だ。
「べ、別にキミたちのためではない」
「え? そうなんですか?」
「あ、あれだ、ほら、キミたちのように優秀な人間を手なずけておけば、たぶん、いつか来る地上侵略的にも色々有利になるし……」
スベテさんは赤くなって腕を組んでいる。
「まあ侵略を手伝ってくれるわけではないし、利用価値としては微妙なところだから、別にわたしとしては、キミたちに出ていってもらっても構わないのだが」
「そう、ですか」
半ば勢いでできてしまったこの異世界帰宅部だけれど、思って見れば、別に転生者との交流を求めていないスベテさんからしたら、いい迷惑だったのかもしれない。
「……実は迷惑、でしたか?」
「……」
「で、出て行った方が良さそうでしょうか」
袖をひかれた。
「フフ、い、行くがいいさ。寂しくなどはない。魔王は孤独であるべきなのだ」
行動と言動があべこべだ。
「は、配下の魔物もほとんどカタコトしか喋れないし、お前達が行ったらわたしは誰とも会話することなく一人で玉座に佇むだけになるな。……それも悪くない」
腕を組んで、うんうんとうなずくスベテさん。
「寂しいの嫌とか思ってないぞ。つ、疲れたから慰めてほしいだなんて思っていないぞ」
「い、いいこいいこ……?」
「そ、それはだめだ!」
手はパシっとはじかれた。