異世界で ロウソクと○○
「はて、ミチト……これは一体なんだ?」
ある日のちゃぶ台の上に、ロウソクが無造作に置かれていた。
スベテさんが手に取り、聞いてくる。
わりと太くて長くスベテさんの手に余るほどなので、目についたのだろう。
「さぁ? 僕がここに来た時にはもう置いてありました。てっきりスベテさんが置いておいたのかと思ってましたけど」
「わたしではない」
ちゃぶ台に戻し、僕とスベテさんはざぶとんに座して、謎のロウソクを見つめる。
ロウソクはこの世界にも普通に存在する。
でもここに置いてある意味は分からない。
「帰宅部の活動に関係ある……のだろうか?」
僕ら帰宅部の拠点は、魔王城の魔王の居室。
魔王のスベテさんは、ヒミリアさんという旋風に巻き込まれただけである。
付き合いがいいのか、お人好しすぎるのか、偉そうにしつつ誰よりも活動に真面目なのはスベテさんだ。
今も、このロウソクの意味を真剣に考えている。
僕は和室内をお掃除中のミフユさんに、目を向けてみた。
「ミフユさんですか? ロウソクを立てて食事しようとか、そういう提案?」
「台風とか災害時にロウソクは必要だからたくさん備えているけど、そんなところに置いた覚えはないわねぇ」
ミフユさんも首を傾げている。
綺麗好きのミフユさんは、見覚えのないものに落ち着かない気分になったのか、丁寧に畳をふきふきしはじめた。
「ハッ、大体、食卓に燭台を立てるのは洋式だろう。こちらの世界でも、よく見かける光景だ。帰宅部の本質から外れている」
「ですよね。僕らっぽい使い方って……仏壇とか?」
「仏壇があるなら持ってきたまえ、さあさあさあ」
「な、ないですよそんなもの。意地悪だなぁ……」
僕が件のロウソクを手に取り、真剣に考えているというのに。
「あ、こんなものも落ちてたわ、いやぁねぇ掃除したはずなのに」
ちゃぶ台の下をゴソゴソやって、ミフユさんが何か言っている。
のそのそと取り出したのは、鞭だった。革製で、先端が複数に分かれている。
「鞭だなこれは」
スベテさんがミフユさんから受け取って、ぽつりとこぼす。
「ロウソクと、ムチ……?」
僕もぽつりとこぼす。
「ロウソクとムチ……」
さらにスベテさんが、もう一度ぽつりと言って。
ハッと顔を上げて、なぜか真っ赤な顔で僕を睨んできた。
「そっそんなことちっともなんにも連想していないぞ! 愚か者めが!」
手に持っていた鞭を、ビシバシ僕に向かってふるってきた。
羞恥のあまりか、目がぐるぐるまわってしまっていた。
「そ、そんなことって僕は何も言ってません……!」
「ロウソクとムチから連想する転生前の文化とか、絶対今考えてただろう! わ、わたしは考えてないからな! 知らないんだからな!」
「とにかく落ち着いてくださいスベテさん! 痛いです!」
*
後日、ヒミリアさんが和室にやってきた。
「やあやあミチト、アレは気に入ってくれたかい?」
「アレ?」
「やだなぁ、ロウソクとムチだよ」
……大体おかしなものを投下していくのは彼女だから、察しはついていたけど。
「ヒミリアさんはどういうつもりでアレを置いていったのでしょうか」
「キミへのプレゼントさ」
スベテさんに痛い目に遭わされることを、狙っていたのだろうか?
僕にそんな趣味はないけど……
なぜかヒミリアさんは、もじもじとしている。
「キミの世界では、アレを贈るのが愛の証になるのだろう?」
「なんだか誤情報が混ざりまくっている気がします」