異世界で 間接照明
何はともあれ、今日もたたみ部屋。
最近、壁に掛け軸が増えました。
「キミの剣についてなのだが」
「え?」
そう言ったのは、魔王のスベテさんだ。
お茶をすすりながら、僕の背中にさされている剣をゆびさしてきた。
「あ、すみません。さっき依頼から帰って、装備したまま持って来ちゃいました」
「いや、それは問題ではないんだ。もちろん、帯刀のしっぱなしは、魔王城の風紀に関わるから、あとでちゃんと片付けることは約束してくれ」
なんだか表情がけわしい。
値踏みでもするような顔をされてしまっている。
「……いつも気になっていたんだが、何故、キミはいつもそんな貧相な剣をもっている?」
想定していない質問だった。
「ひ、貧相とは失礼な」
僕は、がしゃりと、ちゃぶ台の上に剣を置いてみる。
「しかしこれはどう見ても、その辺の武器屋で売っている一本100円のショートソードだろう」
この世界の通貨は国々によって様々だけど、僕らは面倒なので円で呼んでる。
確かに、子供のお小遣い程度で買える代物で、たまに包丁代わりにもしてたりもするので、勇者の剣としては格好がつかないかもしれない。
「キミは確か、魔王も穿つという聖剣エクスカリパーを持っているという噂があったが」
「あぁ、それは持ってますよ」
僕はのそのそとちゃぶ台から立ち上がる。
部屋の押し入れを開けると、ぷわーーっと激しい光が部屋中をおおった。
「な、なんだこの光は……!?」
僕は、押し入れの中にしまっていたエクスカリパーをとりだした。
「そこにあったのか!? というか光源はそれか!?」
「そうですよ」
僕はエクスカリパーの表面をぽんぽんと叩いた。
「うわー、放置してたんで、結構これホコリかぶっちゃってますね……」
「ずいぶん管理雑だな!」
「持ちますか?」
「い、いや、いい、いい。いいって! 近づけるな、やめろ私魔王だぞ! いま我慢してるけど、そのぷわーってまぶしい奴だけで結構ダメージうけてるから!」
そ、そうだったのか。
ちょっと申し訳ない気分になって、エクスカリパーをもう一度押し入れの中にしまう。
「はぁ、はぁ……。うきゅう……」
スベテさんは、疲れ果ててうなだれたようにして、ちゃぶ台の上にアゴをつける。
「し、しかし、それほど珍しい剣を持っているなら、なぜキミは装備しない? もしや、そのぷわーってしたのが私に当たらないよう気を使っているのか」
「い、いや、スベテさんがこのぷわーってした奴でダメージを受けるなんて知りませんでした」
僕が語る間も、スベテさんは真剣そうにこっちを見つめてくる。
……なんだか、気まずい。
説明するにしても、微妙な理由なんだけどなぁ……。
「もちろん、初めて手に入れたときは嬉しかったし、たくさん使いましたよ。僕の場合、幸運もマックスらしいので、その辺を散歩してたら見つけただけなんですけど」
「ふむ?」
「でも……」
スベテさんは魔王で、魔法を主体につかうから、特に武器とかの概念がない。
同じ転生者でも、僕の感覚はいまいち分からないのかもしれない。
「僕は、時の科学者に依頼されて、この世でいちばん固いと言われる、アダマンハルコンの結晶を真っ二つに加工したことがあるんです。エクスカリパーで」
「ほう、大したものだ」
「次の年も頼まれたんです。そこの、一振り100円のショートソードでやってみました」
結果はまぁ、言う必要もない。
「何を使っても変わらないなら、まぁこれでいいかなぁって。エクスカリパー帯刀してると、眩しいですし、村民とかに崇め奉られますし……」
納得したのか、スベテさんは黙りこくった。
僕はエクスカリパーを押入れに戻した。
*
後日の昼下がり。
本職の方で忙しい日々が続いており、僕とスベテさんは束の間の午睡中。
「あらあら、この棒、きらきら光ってすごいわねえ」
意識の浮き沈みの中で、ミフユさんが何か言っているのが聞こえてきた。
僕は目をこすりこすり起き上がり、ごそごそやっているミフユさんの方を見てみる。
「あれ、ミフユさんそれ、素敵な間接照明ですね」
「ふふ、自作ランプシェードやってみたかったの~」
その日からしばらく、スベテさんは悪夢にうなされることとなった。
☆ミチト
いちおう主人公
帰宅部の中でゆいいつの男性にして、歴代最強の勇者と名高い少年
その実力は折り紙つきなのだけど、大体の人には敬語なので、わりと他人のペースに巻き込まれがち
見た目が平凡な少年なので侮られやすい
けれど、本人から過去の活躍を聞き出してみると、誰もがびっくりするエピソードを持っていたりする
普通の冒険服に、普通の剣がお気に入り(安いし)