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異世界で お茶

 僕は異世界に転生し、勇者になった。


 若くして活躍をくりかえし、それっぽい名前の大国の、それっぽい名前の王様から、世界を混沌に陥れる魔王を退治するようにと、拝命つかまつり。


 ――そして、魔王城。


 の、ある一室。

 魔王の居室であるそこは、なぜか和室っぽく改装されている。

 畳。ちゃぶ台。障子。檜タンス。ざぶとん。

 ところどころ間違っているものが混ざっている時はあるが、転生前に僕が馴染んでいた世界観をおおむね再現している。


「ミチト」


 名前を呼ばれて振り返ると、ニコニコしたスベテさんの顔がそこにあった。

 スベテさんは魔王だ。

 魔王だけど、普通に可愛い女の子だ。ちなみに彼女も転生者である。


「フン、腰を抜かすな……? これを見てみるがいい」


 そう言って、スベテさんが、だぁーんと、ちゃぶ台のうえに叩きつけたものがある。

 ……葉っぱだ。

 けれど、まじまじと見つめてみると……。

 やっぱり葉っぱだった。ちょっと綺麗だ。でも葉っぱだ。


「……お、おー!」


 とりあえず感激の声をあげてみたけれど、どう反応すればいいのだろう。


「フン、どうだ、感動したか? 腰を抜かしたか。キミが喜ぶだろうと思ってな」


 スベテさんは、腰に手をおいて、自慢気にふっふーんとアゴをあげている。

 人に葉っぱを見せてすごく得意げだ。これが現役魔王様の威厳だ。

 僕はもう一度葉っぱを見た。感動しようと思って見た。


「葉っぱ、ですね……!」

「これでまた一つ私を見上げる要素ができたな、どうだ? 足にキスするか? ん?」


 スベテさんは、万事この調子だ。特に意味もなく高慢ちきで偉そう。


「い、いや……うーん」

「……ほ、ほぉう、キミもなかなか強気な発言をするようになったものだ」


 だん、とちゃぶ台を叩かれた。


「十枚はあるぞ!」


 葉っぱを増やされた。

 でも、やっぱり、残念だけれど、意味が分からない。どうすれば……。


「……ん。んー……?」

「……も、もういい。わたしは玉座に帰る」


 怒らせて……しまった?


「ど、どこにいくんですか」

「配下と地上侵略の作戦を練ってくる、魔王だからな。……魔王だから」


 とぼとぼ、去っていく。

 僕も慌てて「よ、良い葉っぱだなぁ!」と言ってみたけれど、「キミはわたしをバカにしているのか!」と、叱られた。


「わたしは怒ったから知らん。闇に呑まれろ」

「……ご、ごめんなさい、寂しかったら……」

「寂しくはない!」


 泣きそうな顔で言っていた。

 魔王の角が入りぐちに引っかかって「痛っ」と言っていた。



「……あら? どうしたのミチトちゃん、落ち込んでいるみたいね」


 その何十分かあとで、ミフユさんがやってきた。

 ミフユさんは二つに縛った白金色の髪をくるくる巻いている、大変愛らしいメイド少女だ。

 そしてやっぱり転生者だ。

 メイド服を着てるから、たぶん職業メイドさん……? 分からないけど。

 ちゃぶ台に置いてある葉っぱに気づいてか、手に取って、くんかくんかとにおいを嗅ぎはじめた。


「あらぁ、これ緑茶の茶葉ね」


 ほわほわぁ、っと、柔らかい声をあげる。


「え?」

「これで美味しいお茶が淹れられるわ」


 うそ、緑茶……? ここは異世界なのに……?

 この世界にも緑茶ってあったんだ……!


「び、びっくりしました。感動しました、腰が抜けました!」

「やぁねぇ、そんなに驚くことなの?」


 ミフユさんが、首をかしげている。


「いえいえすごいです! 今まで見たこともなかったのに! 僕なんて、元の世界で見たことある食材を探すために十個の市場を巡ってみたけど、それでも見つからなかったんですよ」

「……?」


 ミフユさんは、僕の話をよく分かっていないらしい。


「そういえば魔王さんが、さっきはりきってて、ミチトちゃんに渡すものがあるって言ってたわねぇ。これのことだったのかしら」

「……あ」


 はっとした。そんな貴重なものを、僕に?


「……あ、あー! やってしまったかもしれません! ど、どうしよう!」

「若いっていいわね」


 明らかに、僕より年下のミフユさんに言われてしまった。



 スベテさんが戻ってきた時、僕らはあたたかい緑茶をふるまった。

 いじけている様子だった彼女も、少し機嫌を直してくれたようだ。

 ミフユさんはにこにこしつつ、さっきからお饅頭を探している。どこにもお饅頭はないということに、いつ気づくのだろうか。

 僕らは、異世界での日々をそんな風に過ごしている。

 のんべんだらりと、転生前の日常を再現。

 それが、僕らが作った異世界帰宅部。

 ……僕らというか、創部した人に僕ら転生者が巻き込まれたというのが正しいけど。

 心地よいので、まあいいんじゃないかな。

 湯気のたつお茶を、スベテさんがずず、と飲む。


「ふん、湯呑じゃないと気分が出ないな」

「すいません、ティーカップしか見つからなくて……」
















☆スベテさん


転生したら魔王になっていた女の子

頭の上の角が長くてよくひっかかる

スベテというのは、転生前の名前

魔王としての本名はおごそかで長ったらしい

たくさんの魔物を従えているうえ、本人も凄腕の魔法使い

転生前から幻想的なものにちょっと憧れをもっていたので、魔王になれて嬉しい

いつも魔王らしく振る舞おうとする

でもわりとすぐ泣く


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