表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

一年後のプロポーズ

初連載です。温かい目で見てください。


太鼓の音が耳元を覆う。地元の小学生が太鼓のリズムで踊るのは、僕の祖父母の世代からの伝統らしい。僕も五年生まではあそこで、のんきに踊っていた。

「にぎやかでいいね」

隣を歩く、詩織がキョロキョロと周りを見回している。詩織はあまり祭りに来たことがない、と言っていた。

「小さな祭りだよ」

謙遜というではない。子供が満足に野球が出来ないほどの広さだ。地元の人しか立ち寄らないから、狭さを感じないだけだ 。

「私は好きだな。この雰囲気」

太鼓の音が止んだ。高鳴る鼓動を沈め、詩織の前に立つ。

「どうしたの、急に?」

「予行練習だよ」

一日中、熱を持ったかのように、それは内ポケットで存在感を醸し出していた。ゆっくりとそれを取りだし、詩織に差し出した。

「指輪?」

「給料の3ヶ月分......じゃないけどな」

「もしかしてプロポーズ?」

そういうのは黙って相手の言葉を待つものだと思うが、詩織らしくて違和感を覚えなかった。むしろ、今の僕にはありがたかった。

「そうだよ。でも今日のは予行練習」

「それを私を相手にするの?」

戸惑いとためらいで、詩織は首を傾げた。当たり前だ。僕も詩織の立場なら、同じ反応を示しただろう。

「一年後の今日、僕たちがまだ一緒だったら、結婚してほしい」

「何で一年後なのよ」

「ここの祭りは春夏秋冬行われるんだ。全部同じ人と通うとその愛は永遠に続く、って言い伝えにあやかりたかったんだよ。どうしても」

今ではそんな古くさい言い伝えを信じている人は少ない。僕がこの町にいた頃でさえ、信仰者は少なかった。

詩織は、「うーん」と唸っていた。それでも、

「いいわよ。じゃあ一年後ね」

と、承諾してくれた。

「ありがとう」

指輪の入った箱をしまう。これが開かれるのが一年後であることを願いながら。

「悠くんは、やっぱ変わってるね」

「お互い様だろ」

詩織が強く、柔らかく僕の腕にしがみついた。

僕は詩織が好きだ。やっと出会えた、人生を共有したい、唯一の存在。

踊りを終えた子供たちが、それぞれの親を目指して通り過ぎていく。

「私も一生、一緒にいたいよ」

それは遠い彼方からの声だった。幻聴だ。仮に本当だとしても、もう遅い。

僕は歩く。一年後の妻とともに。キミが最期にウソをついたこの地を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ