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カガク部!  作者: タカシ
9/15

第3話 カガク部 vs 窃盗犯 ①

 放課後、部活を終えた私は部室の鍵を返すため職員室へと向っていた。



 コツ、コツ、コツ



 薄暗い廊下を一人で歩くのは、それはそれは度胸のいる行為だけれど、今の私は恐怖心よりも使命感のほうが強かった。



 コツ、コツ、ココツ



 私の所属する文芸部は部員が少ない。


 三年生は一人もいなくて二年生は私一人だけ。本当は三人いるんだけど、私以外は滅多に部活に来ない。幽霊部員ってやつね。はぁ。あとは一年生がたったの二人。入ってきたばかりの一年生にこんな怖い思いをさせたら、せっかく入ってくれたのに辞めてしまうかもしれない。



 ココツ、ココツ、ココツ



 きっとそんなことは無いんだろうけど、怖がりで臆病な私はどうしてもそんな事を考えてしまう。まして、こんな薄暗い場所なら尚更だ。



 ココツ、ココツ、コココ



 そういえば最近、校内で窃盗事件が起きているらしい。夕方に一人で行動することが無いようにって先生がHRで注意してた。……私も今一人なんだけど、狙われたりしないよね。



「そうか! みんなで鍵を返しにいけば良かったのよ!」



 コココココココココココッ



 このあと私は、部員みんなで行かなかったことを後悔することになる。




*   *   *




 照りつける太陽。


 雲ひとつ無い青い空。


 熱されたアスファルトをだらだらと歩いている学生たち。


 夏を待ちきれなかったセミたちが、いたるところで鳴いている。



「暑~い」



 六月だというのに梅雨入りする気配も見せず、太陽はジワジワと俺たちの体力を削っていきやがる。



「暑~い」



 右手に持ったカガク部特性太陽電池内蔵の小型扇風機『そよ風君4号』を目の前に翳す。次は雨雲発生装置でも作ろうかな~などと考えていたら、後ろのほうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「やっほー、千葉くん。今日もまた一段と暑いね」


「そうだな。もうすぐ夏だもんな」



 やってきたのはカガク部の誇る万能少女、北村美代だ。真夏日と大して変わらない暑さだというのに、北村の顔には汗一つ浮かんでいなかった。化け物かこいつは。



「お前、暑くないのか?」


「暑い暑いって言ってるから暑いんだよ。心頭滅却すれば火もまた熱しってね」


「……けっきょく暑いんじゃねーか」



 太陽のような笑顔でそう答える北村。太陽……なんて忌々しい響きだ。


 それから俺たちは、他愛も無いことを話しながら校門まで一緒に歩いていく。こうやって誰かと話していれば、それだけで暑さも和らぐ。


 北村に少しだけ感謝だな。



「女子は良いよなぁ、スカートで」


「なになに? 千葉くんスカート穿きたいの?」



 北村がスカートの裾をつまんでヒラヒラとさせながら、興味津々といった顔で聞いてくる。



「そんなんじゃねぇよ」



 彼女の問いにそっけなく答える。



「女子はスカートで涼しそうだなって意味」



 そう言いながら少し離れたところを歩いている女子生徒を指差した。


 超がつくほどのミニスカートと穿いた長身の生徒。小学生くらいのガキならスカートめくりしなくても中が覗けそうだ。



「そうは言うけどね、千葉くん。スカートだって結構大変なんだよ?」


「何が?」


「それは女の子の秘密。知りたければスカートを穿いてみるといいよ。貸してあげるからさ」


「断固拒否する」



 そんな事を話している間に、靴箱まで来ていた。



「じゃ、また後でな」


「うん、それじゃ~ね。あ、穿きたくなったらいつでも言ってね」


「口が裂けても言わないから安心しろ」



 そんなやり取りの後、俺たちは教室へ行くため互いに背を向けて歩き出した。




*   *   *




 そうして放課後。


 たいした出来事も無く授業を終え、いつものように部室にやってきた私は、奇妙な光景を目にする。



「やっほー、千葉くん。上に居るなんて珍しいね? それとも今来たところ?」


「まーな。別に好きで下に居たわけでもないし」



 私の目に飛び込んできたのは、千葉くんがメガネ先輩と仲良くお茶を飲んでいるという珍しい光景だった。机をはさんで向かい合う二人は、窓から入ってくる乾燥した風を魚にお茶を啜っている。


 メガネ先輩の傍にアルコールランプやビーカーなどが置いてあるので、きっとそれでお湯を沸かしたんだろう。


 準備するとき絶対に幾つか壊してるはずだから、あとでチェックしておかないと。



「やは。ずずずー、北村君では、ずずずー、ないか」


「お茶を啜るか喋るかどっちかにしてください!」



 その台詞の区切り方だと、私が否定されているように聞こえるんですけど!



「まあまあ。ずずずー、キミも、ずずずー、一杯、ずずずー、どうだい?」



 差し出された湯飲みには、緑色した半透明の液体が並々と注がれていた。



「だーいぜうぶ。心配しなくても、コレはただのお茶だよ~」


「いや、べつに心配なんかしてないんですけど……」



 お茶だって分かってるけど、メガネ先輩から渡されると、何か変なものでも入っているんじゃと疑っちゃうよ。



「大丈夫だ北村。ただちょっと…………味が濃いだけだ。ずずずー」


「じゃあ遠慮なく……ずずずー、ゲホッ!?」



 正直、飲まなきゃ良かったと思った。


 口内に広がる濃厚な苦味。我慢しようとしたけど、顔をしかめるだけじゃ全然足りない。鞄から水筒を取り出し中身をがぶ飲みする私を、千葉くんが面白そうに見ている。



 謀ったな! 千葉ぁ!!



「何ですかコレ! いったいどれだけのお茶っ葉入れたんですか!」



 思わず先輩に詰め寄ると、千葉くんが無言で何かを指差した。



「……………………」



 そこにあったのは、茶漉し用のかご網に納まりきれず茶葉まみれになった緑色の物体。わずかに見て取れる注ぎ口と取っ手の部分から、それが急須だということが辛うじて分かった。



「どれだけ茶葉入れてるんですか! もったいない!!」



 どうりで濃いわけだ。この量、だいたい六回分はあるよ。



「まあまあ、ずずずー」



 のんきにお茶を啜るメガネ先輩の姿に、私は抗議する気力を無くしてしまった。というかもう疲れたよ。地下室で静かに本でも読もう。うん、そうしよう。



「もういいです……後片付けは自分でやってくださいよ……」



 そう呟いて地下実験室の入り口に脚を向けたその時、部室の扉がゆっくりと開いた。



「すいませーん、勝彦君は居ませんか?」



 ドアから体の半分だけ出して室内を伺っている女子生徒。幼さを感じさせる顔と、地面に向ってまっすぐに垂れる黒髪が特徴的な女の子だった。不安げに揺れる瞳には、何かこう、グッと来るものがある。



「間島さん……?」



 最初に反応したのは当然ながら千葉くんだ。最年長のメガネ先輩は、やはりというか流石というか、ずずずーっとお茶を啜っていたよ。


 どうやら間島という名前らしいその女子生徒は、千葉くんの姿を見つけるや否や物凄い速さで近づいてきたかと思うと、おもむろに千葉くんの手を取ってこう言った。



「勝彦君お願い! 窃盗犯を捕まえて!」




 

*   *   *





「ねぇ千葉くん、この人は?」



 間島さんを座らせるなり彼女の方を見ながら――というか睨みながら――素性を尋ねてきた北村。なんかちょっと怖い。



「えっと……」



 その迫力に気圧された俺の代わりに、睨まれている間島さんが自ら口を開いた。



「文芸部の部長をやらせてもらっています、二年B組の間島文恵マジマフミエです」



 よろしくね、と頭を下げる間島さん。対する北村は眉一つ動かさず自己紹介をした後、



「で、千葉くん。間島さんとはどんな関係?」



 なんてことを俺の方向いて言い放った。室内の空気が次第に重くなっていく。どんな関係って言われてもなぁ……。



「た、たまに文芸部に本を借りに行ってるんだ。ほら、図書室ってここと正反対の場所にあるだろ? あそこまで行くの面倒でさ」



 とにかくこの空気をどうにかしようと出来る限り陽気に言ってみたけど、焼け石に水。大した効果は得られなかった。



「まあ、あれは図書室というより図書館って感じですけど」



 校舎から少し離れたところにある三階建ての建造物を思い出したのか、間島さんがクスッとと笑みをこぼし、それを見た北村が機嫌を悪くしていく。


 ところでこの雰囲気、どっかで見たことがあるんだよ。でもそれについて考えたらいけない気がする。触れてはいけないものってのがこの世界には沢山あるん――



「昼ドラの~、ずずずー、浮気発覚シーンじゃないかな~。ずずずー」


「先輩!」



 うわー。知りたく無かったなー。



「それで、今日はどんな御用ですか?」



 不機嫌なことを隠そうともしない北村は、ダイレクトに質問を投げかけた。



「えっと、実は……」


 

 

 ~三十分後~




「というわけで、窃盗犯を捕まえて欲しいんです」



「「長ぇよ!!」」



 あまりにも長い説明に、思わずツッコミを入れる俺と北村。


 間島さん、あなた文芸部ですよね!?


 どうしてそんなに説明下手なんですか!?


 あれですか、起承転結を意識しすぎて逆に変な感じになっちゃったんですか!?



「つまり、ずずずー。今話題の窃盗犯を捕まえて、ずずずー。昨日取られた物を取り返せば、ずずずー、いいわけだよねー?」



 ただ一人話の内容を理解できたメガネ先輩が、俺たちに代わって確認を取る。てかまだお茶飲んでたんですか……。



「あの、何でそこまでして取り返そうとするんですか?」


「昨日盗られたバッグの中には、私の大切なUSBメモリが入っていたの」



 伏せ目がちにそうこぼす間島さん。



「そのUSBメモリには何が入っていたんですか?」


「コンテストに出すために書いていた小説よ」


「コンテスト?」


「毎年この時期になると、色々な出版会社がコンテストを開くの。そして応募された中から特に優秀な作品が世に送り出される。私たち文芸部は、毎年一人一作品、それに応募することになっているんです」



 なんだか大変そうな決まりだな。



「今度応募しようと思っていた作品は、私が今まで書いてきた中でも一番の自信作なの。だからお願い、何としてでも取り戻したいの」



 間島さんはそういうと深く頭を下げる。動きに合わせて垂れ落ちた前髪で表情こそ見えなかったものの、その声色は真剣に助けを求めていた。



「どうする?」



 隣に座っている北村に尋ねる。俺としては力になってあげたいけど、独断で決めるわけにはいかない。メガネ先輩はさっきからニヤニヤ笑ってるので乗り気なんだと丸分かりだが、北村がどう思っているのかがよく分からない。


 話の間ずっとしかめっ面をしていたからだ。



「間島さん……」



 静かに、それでいて重みのある声。発したのは当然北村。



「何でしょう?」


「あなたと千葉くんは、本の貸し借りをするだけの間柄なんですね?」



 は?


 北村はなにを言ってるんだ?



「ええ。勝彦君がさっき説明したように、たまに本の貸し借りをするだけの中です」



 淡々と語る間島さん。その言葉にウソは無い。事実、俺と彼女はそれだけの付き合いだからだ。



「だから安心して。あなたが懸念しているような関係ではありませんから」



 その言葉を聞いた瞬間、北村の顔が茹でダコのように真っ赤になった。



「べ、べべ別に私は、そういう意味で言ったんじゃなくて……」



 しどろもどろな北村。なんか新鮮でかわいい。



「あらあら、照れちゃって。もしかして図星だったかな?」


「! か、かかか、からかわないでください! い、行くよ千葉くん!」


「おいっ、ちょっと、待てって、うわああ!」



 一人あわあわとしている北村を、暖かい目で眺める間島さん。その視線に耐えられなくなったのか、北村は俺の手を引っつかむと、もの凄い勢いで部屋から飛び出した。


 半ば反射で何とか肩掛け鞄を掴むことに成功したが、無理矢理に掴んだため大きくバランスが崩れる。足がもつれて上手く歩けない俺は、半ば引きずられるように付いていったのだった。


 あー、手が痛い。



「やー、若いねー。青春だねー」



 先輩……。俺たちはあなたと一つしか年は違わないと思うんですが。




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