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カガク部!  作者: タカシ
6/15

vs 女子ソフトボール部 ②


「えー、私たちは現在、第二グラウンドに来ています」



 私たちの学校には三つのグラウンドがある。一年~三年校舎に横付けされるように設けられたそれらは、この学園の財力の象徴の一つとして数えられている。

第二グラウンドは二年生の校舎に近く、放課後には野球部やハンドボール部が練習場として使用している。


 あの後ろくな説明も無いまま此処に連れてこられた私と千葉くんは、女子ソフトボール部(以下、女子ソフト部)の面々と向かい合って並んでいた。



「あのー、沙耶加先輩。俺たちがこんなところで女子ソフト部の皆さんとメンチの切り合いをする羽目になっているのか、そろそろ説明してほしいのですが」



 私の隣にいる千葉くんが宮原先輩に小声で訴えた。面倒くさそうな先輩の顔が見えたのので、私も目線で援護射撃。


 だってソフト部の人達から睨まれてるのって主に私なんだもん。居心地が悪いったらありゃしない。



「あー、それは……」


「それは私から説明するわ」



 先輩の台詞を掻っ攫っていった声の主は、女子ソフト部の先頭に並んでいた筋肉質な選手だった。



「北村美代さん」



 そう言いながら私の前まで歩いてくる彼女の頭には、安全メット(ライト付)が装着されていた。



「土木工事のおばさん?」



 千葉くんの呟きは聞かなかったことにしよう。



「簡潔に説明するわ」



 目を血走らせて私を睨んでくる彼女。



「怖っ!」



 うん、私もそう思うよ千葉くん。

 

 でも悲しいかな。これから何を言われるのか、あの真剣な目を見たら分かってしまった。



「北村さん、貴方が欲しいの!!」


「ほらきた!」


「またかよ!」



 この学校に入学してからというもの、耳にたこが出来るほど聞かされた言葉。そしてそれに同じような反応を見せた私たち。余りにも想像通りの言葉だったのでつい反応しちゃったよ。


 ……あれ?



「私、女子ソフト部の勧誘は以前断ったはずですよ?」



 そう、入学して一週間くらいしたころ、うちのクラスに部員全員で押しかけてきたことがあった。ソフト部の熱い眼差しとクラスメイトの冷ややかな眼差しの板ばさみにあって落ち着かなかったことを覚えている。



「ええ、覚えているわ」


「だったら何でまた?」



 あれから一ヶ月以上も経っている。こういう部活なら進入部員とも打ち解けて、チームワークも揃い始めた頃だ。そこにわざわざ私なんかが入っていったら、それをぶち壊しかねない。



「大事なのは戦術よりも戦力です」



 冷静にそう告げる安全メット。その言葉とは裏腹に、私に向けられる視線は驚くほど情熱的で輝いている。というか、彼女に限らず後ろに並んでいるソフト部員全員の目が同じように輝いているんですけど……。



「おーおー人気者だねぇ」



 他人事みたいに言ってるけどね千葉くん、今から起こることにキミも巻き込まれるんだよきっと。



「というわけで、これから私達ソフトボール部と勝負をしてもらいます」


「どういうわけだよ!」


「もしかしてそれ賭け試合?」


「はい。北村美代さん、貴方を賭けて」



 その言葉を聞いて、私は人知れずため息をついた。



*   *   *



 ソフト部が提案した勝負内容は、女子ソフト部チームとカガク部チームに分かれて試合をするということ。カガク部チームは三人なので、足りない分の六人は女子ソフト部からレンタルすることに。


 ただし、これはあくまでもカガク部と女子ソフト部の勝負なので、カガク部チームの攻撃は俺、北村、沙耶加先輩の三人で行うこと。満塁のときはレンタルメンバーから代走を出すなどが話し合いにより決定された。


 バッターボックスに立って数回素振りをした後、俺は相手のピッチャーを見つめた。キャッチャーがサインでも出しているのか、しきりに首を振っている。



「そんなマジにならなくても……」



 こちとらバットを握るのだって数年ぶりなんだぞ。ソフト部の投げるボールなんてストレートでも打てる気がしないっての。



「千葉くーん、ガンバレー」


「勝彦―、トップバッターなんだからデカイの打ちな!」



 無茶言わないでくれお二人さん! こちとらバットを



 ――バンッ!



「へ?」


「ストライーク!」


「かぁつひこぉ! 何ボーっと突っ立ってんのよ! シバキ倒すわよ!」


「千葉くーん、ボール見てボール!」



 おいおい、どう見ても初心者の俺に容赦なく投げてきたよ。



 ――バンッ!



「ストライーク!」


「くっ」



 間髪いれず投げられたボールに、俺は何の反応も出来なかった。キャッチャーミットに収まったボールを見つめる。これじゃあ思考に浸る暇もないじゃないか。


 こうなったらウダウダ考えるのは止めだ。


 飛んできたボールを、ただ無心に叩く!



「たまには俺だってッ!」



 ヒュン!


 ブンッ!


 バンッ!



「ストラック! アーウトッ!」


「…………」


「勝彦! 掠りもしないってどういうことだぁーー!」


「どんまいどんまい。次があるよー」



 俺は、今回も戦力にならなさそうだ。



*   *   *



 しょんぼりと肩を落として帰ってくる千葉くんと入れ替わるように、私はバッターボックスへと向う。宮原副部長に厳しい言葉を投げつけられる千葉くん。その肩をポンッと叩く。ドンマイって。



「さーて、打つぞー」



 千葉くんの敵討ちって分けではないけど、ちょっとイラッらしてるんだよね。



「初心者相手にポンポン投げちゃって……」



 そこまでして私が欲しいのかな?


 二、三回素振りをしてバッターボックスに入る。相手のピッチャーは私よりも頭一つ背が高い。一七五cmくらい? だから何だって話だけど、どうもやりにくい。



「いや違うな」



 この胸の奥から沸々と湧き上がるこの感情は……



「怒り……かな」



 赤く煮え滾る、久しく感じていなかったこの感覚。最後に感じたのはいつだっただろう。まあどうだっていいや。



「ようは打てばいいんだよね」



 グリップを握りなおし目を閉じ深呼吸を一つ。無理矢理に気持ちを落ち着ける。こんなにささくれ立った気持ちじゃ打てる球も打てないもんね。



「さあ、こーい!」



 気合十分。


 体調良好。


 準備万端。



「ぶっ潰してアゲル♪」

 


 しかしボールは思いもよらないところへ飛んで来たのだった。



*   *   *



「クソッ、やられたわ」



 北村の打席が終わった後、隣に座っていた沙耶加先輩が忌々しげに呟いた。



「やられましたね」



 そう返す俺。鏡を見ないと分からないけど、今の俺は苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう。


 今の北村の打席は見事なまでのフォアボール。キャッチャーが立ち上がりこそしなかったけど、コースは明らかにボールだった。つまり女子ソフト部は北村と勝負する気が無いということで、となると、残る俺と沙耶加先輩が打つしかない。打つしかないんだが、



「あたしが気張るしかない……か」


「うぅ、すんません」



 悲しいかな俺では得点に絡めないので、必然的に沙耶加先輩が打つしかなくなるのだ。



「別に勝彦が悪いわけじゃ………………ないわよ」


「何ですか今の間は!?」


「さ~て打つかー」


「はぐらかされた!?」



 バッターボックスへ向う先輩。くぅぅぅ、こうなったら守備で名誉挽回するしかない。



 こんな俺の決意も、予想外の形で空回りするのだった。



*   *   *



「先輩。作戦うまく行きましたね」


「まだ試合は終わっていない。気を抜くんじゃないよ」



 そう忠告し、私は安全メットを被り直す。

 

 現在試合は六回の裏、女子ソフト部の攻撃だ。一アウト満塁でスコアは六対〇、私たち女子ソフト部が圧倒的に勝っている。

 

 まあ勝っていて当然なのだ。普通に考えて、文化部が運動部に勝つことはありえない。


 先程後輩の言っていた作戦というのはいわば保険のようなものだったのだが、まさかこれほどまでに効果を表すとは正直思っていなかった。



「しかし、此処で気を抜いてはならない」



 この点差に安心していると、どんなミスを仕出かすか分からない。失敗が失敗を呼び、気がついた時には負の連鎖が出来上がっていたなんて事はよくある話だ。



「私たちは絶対に負けられない」



 全ては北村美代というあの生徒を手に入れるために。


 そして――


 そして――



*   *   *



「これはどーいうことだよ!」



 七回の表、カガク部チームの攻撃。


 沙耶加先輩が打席に入ってる間、俺は六人の女子生徒達を詰問していた。ちなみに北村は一塁に出ている。



「幾らなんでもエラーしすぎだ! それでもソフトボール部の一員なのか!」



 これまでの守備を思い返しても明らかに不自然だった。簡単なフライを取れなかったり、ボテボテのゴロを取れなかったり、送球・捕球ミスしたり。


 俺だって他人の事は言えないけど、こいつらは腐っても女子ソフト部の一員だ。それなのにあんな初心者がするようなミスを連発されると、もうわざとやっているとしか思えない。



「ことと次第によっちゃぁ、ただじゃおかねぇからな!」



 俺だって珍しく怒り心頭だ。しかも沙耶加先輩にこいつ等を〆とくように言われたから、事と次第によっちゃ容赦はしない。


 そうやって睨みを利かせていると、右端にいた一番背の低い奴がポツリと呟いた。



「アンタだってエラーしたくせに……」



 その一言が波紋のように六人に伝染していき、ワンテンポ遅れて



「そうだそうだー」


「他人の事言えないじゃんよ―」


「自分のことは棚に上げて」


「サイテー」



 などなど、口々に俺を罵り始めた。



「う、うるさい! 俺は初心者だからしかたねぇだ……ろ…………」



 ん?



 なんか今、とても大事なことを口にしたような……?


 もしかしてこいつ等……いや、まさかな。



「それなら、私たちだって怒られる理由なんかないわ!」


「!」



 その言葉を聞いて、自分の考えが現実味を帯びてきた。



「君たちってもしかして……初心者?」




「「「「「「だったらなによ!」」」」」」




 瞬間、俺の頭の中でカチリという音がした。


 なるほど、漫画やドラマで探偵が謎を解いたときの感覚ってこんな感じか。何というか、晴れやかでスッキリとした気分だ。


 しかし一泊遅れてブチリという音がしたかと思うと、先程までの晴れやかな気分は何処へやら、心の奥から怒りのマグマが噴き出してきた。


 なるほどそういうことか。


 だったらこっちだって容赦はしない。いや、してはいけない。



「ちょっと! なに黙ってんのよ!」



 そんな非難もなんのその。俺はベンチまで走っていくと、自分のバッグから携帯電話を取り出し、ある人物に連絡を取る。



「……よし」



 パタリと携帯電話を閉じ、レンタルメンバーに、そして相手チームに目を向ける。


 そうだよ、いつまでも相手の土俵で戦ってやる必要なんて無いじゃないか。


 俺たちはカガク部だ。なら、カガク部らしく戦おう。



「本当の勝負はこれからだ!」




 この勝負、絶対に負けられない。



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