第1話 カガク部 vs バイオ部 ①
一日の授業も終わり、味気ないホームルームが終わった午後。グラウンドは運動部の生徒で溢れかえり、校庭には下校する生徒達がちらほら。
そんな光景を視界の端に捉えながら、私は一人、乱れた息を整えながら部室へと向かっていた。
「あ~、しつこかった~」
女子ソフト部の勧誘を振り切るために十分間くらい走り続けていたんだから、そりゃ息も切れるよなぁ・・・・・・。
五月だというのにいまだ桜の咲き誇る桜並木。そこを抜けると、目的地である旧校舎……通称部室棟が見えてくる。
部室棟へ着くと、中から今までに聞いた事のない鳴き声が聞こえた。驚いて窓のほうを見ると、大きな黒い影が廊下をゆっくりと移動していた。
「また変なの造ってる・・・・・・」
アレはきっと、バイオ部の実験体か何かだろう。
「はぁ、きっと私が処理しなくちゃいけないんだろうなぁ」
どんな環境にも適応できる新しい生命を生み出す事に躍起になっているバイオ部は、時々さっきみたいな変な生物を造りだす。
そしてその処理は、決まって私の所属しているカガク部にお鉢が回ってくる。まったく。分の物は自分で片付けてほしいよ……。
部室へと向かって動かそうとした足がかなり重くなった私は、「私がアレを何とかしないと学校中・・・・・・へたをしたら町中がパニックになるかもしれないんだ!」と無理矢理に自分を鼓舞してようやく歩き始めた。
* * *
「こんにちは・・・・・・うっおあ!」
木造三階建ての旧校舎。その三階にある部室は、今日も窓を締め切って作業をしているようで、初めて来た日と同じ匂いが部屋中に充満していた。
「やは、遅かったじゃないか」
窓際の机で作業をしていたメガネを掛けた先輩が、くるりと向きを変えながら言った。その際、はためく白衣が近くに置いてある試験管を床に叩きつける。
「また出費が……」
あの白衣によって破壊された備品は、これで今月二十五本目。過去の記録によると、最多記録は三年前の五十八本らしい。もう少し周りを見て行動してほしいものだ。
「どうしたの、浮かない顔をして? お腹でも痛いのかい?」
「……なんでもないです」
どうせ言っても聞いてくれないだろうことは火を見るより明らかなんだ。無駄に労力を使う必要は無いよね。
「それより先輩、他のみなさんは?」
私の入っている部活動――カガク部のメンバーは、私を入れて六人。この学校の平均的部員数からしたら少ないほうである。
「哲也君は先生に呼ばれて少し前に出て行ったなぁ。宮原君も。あと、安藤君が補習で遅れてくるとか何とか。残りは地下室にいるはずだよ」
「残りと言っても一人だけですけどね」
そう言いながら、私は地下の実験室に降りるために室内の一番奥の机へと向かう。
その机には試験管立てが置かれていて、それぞれに違った色の液体が入った試験管が七本立ててある。その順番を、赤→緑→紫→ライトグリーン→青→黄→ライトブルーの順に並ぶように差し替える。
ビー、という電子音がしたので足元を見ると、床がスライドし地下への入り口が現れる。
「それじゃあ、先輩。お先に失礼します」
そう言い残し、私は地下へと続く階段に足を踏み入れた。
「あいよ~」
背後ではメガネ先輩がビーカー片手にひらひらと手を振って見送ってくれていた。
彼は私たちが地下に降りた後、この隠し通路を閉める役割を担っているのだ。
内側からでも閉められるらしいが、外の仕掛けまでは戻す事ができない。それに留守番も必要だ。
『メガネ先輩が残されてるのって、地下の物を壊させないためらしいよ~』
楽しそうに種明かしをした同期の部員の話を思い出し、自然と頬が緩むのを感じながら、私は階段を降り続けるのだった。