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カガク部!  作者: タカシ
11/15

vs 窃盗犯 ③


 ヤンキー共を駆逐し終えた俺達は、さっそく間島さんの鞄を探し始めた。鞄の特徴はここに来るまでにメールで聞いておいたので、見つかるのは時間の問題だろう。


 それにしても……



「汚いなぁ」



 不良の溜まり場という名に恥じない散らかしっぷりに、少しだけ憧れにも似た気持ちが芽生える。男の子なら誰もが一度は不良に憧れるもんだ。それは俺だって例外じゃない。


 テーブル代わりに使われていた木箱の上や下、あとその周辺が特に散らかっていた。弁当の空箱やお菓子の袋、多種多様なマンガや雑誌といった定番のゴミたち。まさに絵に描いたような散らかりっぷりには感動すら覚える。


 と同時に、俺はドラマでの再現率の高さにも驚いていた。まさに瓜二つだ。もしかしてスタッフの中に不良だった人でも居たのだろうか……。それとも実際の溜まり場で撮影したのだろうか……。


 ……ん? ちょっと待てよ……。


 【ドラマでは不良の溜まり場を忠実に再現している】というのは、もしかしたら大きな間違いなんじゃないか?



 まず不良たちがドラマを見る。


  ↓


 その時に『不良の溜まり場とはこういうものか!』と知らず知らずのうちに先入観を植え付けられる。


  ↓


 結果、無意識のうちに自分たちの根城が散らかり始める。



 ……うん。我ながら完璧な推理だ。


 これ以上突き詰めて考えると、『鶏が先か卵が先か』という話になってくるので、この話はいったん置いておこう。



「きゃっ!」



 思考の海に沈んでいた俺の耳に、聞き慣れたけど聞き慣れない声が聞こえてきた。十中八九北村の声だろうが、彼女の悲鳴なんて滅多に聞くことが無い為、かなりの違和感を感じてしまった。


 不良の生き残り(殺してはいない)でもいたのかと目を向けると、声の主はある雑誌を手に固まっていた。



「~~~ッ!」


「あ~、北村。とりあえずそれ、遠くに放り投げろ」



 そう言ってやると、北村は持っていたエロ本を黒板に向って思いっきり投げつける。物凄い速さで飛翔したエロ本は、痛々しい音と共に着弾し落下。長年放置されたことで積もりに積もっていた埃が巻き上がった。


 意外と免疫無いんだな。いや、あっても困るけど。




 すずめが六羽~と~まって~



 一羽のすずめがいうことにゃ~



 戦にま~けてに



「ん?」



 いきなり鳴り始めた携帯。いったい誰だよ。手首のスナップを利かせて携帯を開くと、画面に表示されていたのは見たことのない電話番号だった。



「? もしもし……」


『やは。ずずずー、調査ははかどってるかい?』



 不審に思いつつも電話に出た。聞こえてきたのはメガネ先輩の声。お茶を啜っている映像が勝手に脳内で再生される。



「そうですね。今しがた犯人グループを殲滅したところです」


『ほほー。がんばったねー』


「はぁ、まあ……。じゃあ、俺達これから間島さんの鞄を探さなきゃいけないんで、失礼します」


『ああ、それなんだけどねー』



 通話を切ろうとしていた俺の耳に飛び込んできたのは、とんでもない情報だった。



*   *   *



 廊下からドタバタとした足音が聞こえる。足音は二人分。距離はそう遠くないので、もうすぐやってくるだろう。誰が? そんなの足音ですぐに分かるよ。



「メガネ先輩! 犯人は不良じゃないってどういうことですか!」



 勢い良く扉を開けて入ってきたのは北村君。少し遅れて千葉君もやって来た。



「ちょっ……北村…………足……速すぎ……」



 入ってくるなり僕のいる机に突進してくる北村君と、入り口付近の壁にもたれ掛かり、ぜーぜー言ってる千葉君。面白いくらいに対照的な絵だ。



「どういうことも何も、ずずず~、そのままの意味だけど~?」


「だ~か~ら~」



 お茶を啜りながらそう答える僕と、うがーっと頭をかきむしる北村君。うーん、僕はべつにはぐらかしてる訳じゃないんだけどなぁ。



「あの、で、間島さんの、鞄は、見つか、たんですか?」



 苦しそうに千葉くんがそう聞いてくる。



「彼女の鞄は見つかったよ~。USBメモリも無事だったって~」


「そう、ですか。よかったぁ」



 僕の言葉を聞いて安心したのか、地面に崩れ落ちる千葉君。どこから走ってきたのかは知らないけど、ウチの学園で一、二を争う脚を持つ北村君に着いて走ったんだ。彼の疲労は計り知れないねー。



「うんうん、二人ともご苦労様~。一杯どうだい? あ、二杯が正解かな?」



 全力で走ってきたんだ。きっと喉がカラカラだろう。特に千葉君とか千葉君とか。


 二人をねぎらう為にお茶でも入れようと、背後の机に置いてあったアルコールランプに火をつける。



「い、いえ、私達は結構です」


「そ、それより、ま、間島さん、は、今どこに?」


「彼女なら、今は文芸部の部室にいると思うよ~」



 二人の質問に、後ろを向いたままで答える。もちろんお茶の準備をしながらだ。二人分の湯飲みを用意したり、急須に茶葉を入れたり、お湯の温度を測ったりと、意外とやることが多いんだなーこれが。


 一通りのことをやり終え二人のほうを振り向く。だけど、二人の姿は影も形も無かった。



「ま、いっか~」


 荷物はここに置いてるみたいだし、どうせ戻ってくるだろう。そのときまでに、極上のお茶を用意しておこうじゃないか。


 そういえば、北村君の額に大きいガーゼが貼ってあったけど、何かあったんだろうか?



*   *   *



 私は、怒っても良いんだろう。それだけの事をされたんだから、怒るのは当然の権利だ。いいや、むしろ怒らなくちゃいけない。


 私のためにも、彼女たちのためにも……。


 ここは文芸部の部室。正座しうな垂れている犯人たちを見下ろし、私はそんな事を考えていた。


 事情聴取は既に終わり、犯行の動機も分かった。後は学園の教師か生徒会に突き出せば終わりなんだろうが、今回ばかりは事情が違った。それゆえに、私も今こうして悩んでいる。


 そんな時だ。彼女たちがやって来た。



「「間島さん(先輩)!」」



 騒々しい音と共にやってきたのは、カガク部の二人。勝彦君と北村さんだ。どうやらメガネの人から連絡をもらって急いで来たみたいね。



「先輩! 犯人が見つかったって本当ですか!」



 入ってくるなりそう言ったのは北村さん。勝彦君は相当疲れているのか息をするのも苦しそう。息をしなかったらもっと苦しいんだけど。



「ええ。私から鞄を奪ったのは……この二人よ」



 体は勝彦君たちの方を向きながら、目線を犯人へと投げる。相変わらず正座し俯いている二人は、新たに降り注いだ視線に耐えるかのようにもぞもぞと体を動かした。



「えっ……!?」



 驚きの声を上げたのは勝彦君。驚くのもしょうがないか。だって彼は、この二人のことを知っているはずだもの。



「な、何で……」


「どうしたの千葉くん?」



 さて、状況についてこれてない彼女のために、そろそろネタばらしと行こうじゃないの。



「この二人はね、ウチの部の、文芸部の一年生なの」



 勝彦君たちが出て行った後、私はメガネの人とお茶を飲んでいた。せっかく他の部に来たのだから、何か面白いネタでも~と思ったわけ。そうしたら次から次へと出るわ出るわ。長丁場を覚悟した私は、一度部室へとお茶菓子を取りに戻ったのだけど、そこにいたのがこの二人。


 文芸部員だから、べつに居たっておかしくは無いでしょ?


 ノートパソコンを食い入るように見ていた二人は、私が来たのに気づかなかった。そこで私は、こっそり後ろから覗き込んだの。だって気になるじゃない? 何をそんなに見ているのか。


 けれどディスプレイに移ってるものを見て愕然としたわ。それは私が書いた作品で、しかも今度のコンテストに出そうと思っていたやつだったの。データは自宅のパソコンか私のUSBメモリにしか入っていないはずなのにって。そこまで考えれば後は簡単。推理小説っぽく言うんなら、謎は全て解けたってところかな。


 USBメモリは昨日取られたバックの中。その中身がここにあるという事は、犯人は窃盗犯じゃなくてこの二人。おそらく最初からこのデータを狙ったんじゃないかってね。


 ちなみに勝彦君が驚いたのは、文芸部にちょくちょく出入りしてるうちに二人の顔を覚えたから。仲もそれなりに良かったみたいで、三人が学食で話してるのを一度だけ見たことがあるわ。



「……なるほどな。だいたい分かった」


「えっ? 分かったって、何が分かったの千葉くん」



 私まだなんにも言ってないんだけど。さすがは勝彦君ね。



「彼女たちの犯行の動機だよ。真島さんも、もうそのへんは分かってるんですよね?」


「ええ。勝彦君達が来る少し前に、本人たちから聞いたわ」


「そうですか。それで、二人をどうするんですか?」


「それを悩んでるのよねぇ……」



 確かに最初はすごく腹が立ったわ。よりにもよって犯人が身内だったなんて思ってもみなかったんだから。


 でも、話を聴いていくうちになんだか怒る気が無くなっていったのよね。私も彼女たちと同じようなことを考えた時期があったからかしら。なんだか他人事じゃないっていうか。



「正直、もうそんなに怒ってもないのよ。ただ、うやむやにはしたくないだけ」


「そうですか。分かりました。じゃあ後はそちらでお願いします。北村、帰るぞ」


「えぇっ!? ちょっ! ふぇえっ!?」



 そう言うと勝彦君は北村さんの手を引いて帰っていった。まったく……。



「さぁ~て」



 内心のニヤニヤを押し殺しながら、正座している後輩たちを見る。彼女たちはそろって目を点にして部室の出入り口のほうを向いていた。



「あの二人は何しに来たんだ? って顔をしてるそこの二人!」



 ビクッと肩を震わせ、壊れた首振り扇風機並みにゆっくりとこっちを向く二人。



「根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ~。私の新作の感想をね!」



*   *   *



 木造三階建ての部室棟において、文芸部は二階に、カガク部は三階に部室がある。各階を繋いでいるのは当然ながら階段で、校舎内に一つと両外に一つずつの計三つ設置されている。


 私たちが今上っているのは校舎内にある階段。で、たった今三階に到着したところだ。



「ねぇねぇ、いったい何がどうなってるの?」



 少し薄暗くなってきた廊下で、私は目の前の千葉くんに訊ねた。正直に言うけど、私は事件の真相がさっぱり分からない。が、聞こえなかったのか千葉くんはそのまま歩き出した。そんなはず無いのに。私との距離は一メートルも無いんだから、聞こえないなんてありえない。



「ねえったら!」


「おわっ!?」



 距離を縮めて耳元で叫ぶ。案の定、驚きの声を上げる千葉くん。これでもう聞こえなかったなんて言わせないよ。


 さらに、文芸部からここまでずっと繫ぎっぱなしだった右手に力を込める。私の右手が掴んでいるのは千葉くんの左手。握力ならそこいらの男子よりはあるつもりだ。それに、殆どの例に漏れず千葉くんの利き腕は右。いくら彼が男子だといっても、利き腕でない左手では、私に勝てる道理はない。


 現に今、千葉くんの左手は万力で締められているに等しい激痛に襲われているはずだ。



「いたたたたたたた! わ、わかった! 話す! 話すから放してくれ!」



 自身の左肩をタップし降参の意を表する千葉くん。



「まったく。無視しようとするからこうなるんだからね」



 そう言いながら、少しずつ右手の力を弱めていく。けれども放したりはしないよ。逃げられたらいけないからね。



「お前なら楽に捕まえられるだろうに……」


「べ、べつに手を放すのがもったいないな~とか思ったからじゃないよ。うん」



 涙目で睨んでくる千葉くん。自分でも訳の分からない言い訳だと思う。だからそんな、何言ってんのこいつって目で見るの止めてもらえないかな!



「と、とにかく! 今すぐに今回の事件の真相を教えなさい!」


「……まぁいいけど。お前、日に日に沙耶加先輩に似てきてないか?」


「え!? そ、そうかなぁ……」


「いや、照れるところじゃないと思うぞ。むしろ気をつけなきゃ。あの、人半分おじさん入ってるから――」



「だ~れがおじさんだって~」



「「うわっ!?」」



 突如響いた声に驚いて顔を上げると、階段の上で小さな鬼……もといカガク部の副部長が睨みを効かせていた。



「さ、沙耶加先輩!? いい、いつからそこに?」



 ちなみにこの階段、屋上にまで続いてます。



「そんなことはどうでもいいの」



 物凄い形相で――といっても逆光でよく見えないんだけど――階段を下りてくる宮原先輩。


 怒りに囚われていてもスカートの中身は絶対に見えない。さすがです先輩。



「どこに感心してんだお前は!」



 先輩が一段下りるごとに一歩づつ後退してくる千葉くん。そしてついに私の隣まで下がると、クルリと反転して階段を駆け下りる……って、えっ!? ちょっと!



「逃げるぞ北村!」


「なんで私まで!?」


「逃がすかぁ!!」



 そうして始まった壮絶な追いかけっこは、下校時刻を過ぎても終わることは無かった……なんて事は無く、もともと体力の限界が近かった千葉くんが、階段を下りきって力尽きた所を捕縛された。今日は走りっぱなしだったからねぇ……。


 千葉んはそのままカガク部の地下実験室へと連行され、私はメガネ先輩とお茶を――もちろん私が淹れた――飲む。あ、お茶菓子が欲しい。今度買って置いておこう。



「ずずず~。…………あ!」



 結局事件の真相を聞けて無いじゃん!



「ま、後で電話すればいいか」



 時折聞こえてくる悲鳴のような音は聞かなかったことにして、湯飲み片手に部室の備品を数え始めるのだった。



「やー、若いねー。青春だねー」



 メガネ先輩、あなたは私たちと一つしか違わないはずですが……。



*   *   *




 すずめが六羽~と~まって~ 一羽のすずめがいうことにゃ~ 戦にま~けてに



 ピッ



「……はい」


《あ、千葉くん?》


「北村か、どうした」


《いや、大した用事じゃないんだけどね――》


「なら切るぞ」


《え!? ちょっと待って! 待ってってば!》


「冗談だよ」


《もう! 用事が無いと電話しちゃいけないわけ?》


「だから冗談だって。んで、何?」


《今日の……文芸部の事なんだけど。結局どういうことだったわけ?》


「どうって、あー、北村はどこまで理解してる?」


《間島先輩のバックを取ったのが文芸部の一年生だってとこまで》


「ならいいじゃん。今回の件はそれで解決したんだし」


《良くないよ! 二人がなんであんな事したのかとか、私全然分かってないんだからね!》


「なぜ自慢げに言うんだ……」


《とーにーかーく!》


「でもなー、こればっかりは言っても分かんないんじゃないか?」


《怒るよ?》


「はいはい。じゃあ北村。とりあえず間島さんの書いた小説を読んでみてくれないか」


《先輩の書いた?》


「そう。できれば間島さんが最初に書いたやつと、最近書いたやつ。文化祭で文芸部が作った詩集みたいな本に載ってるから。たぶん図書室に行けばあると思う。最近のやつは俺が借りてるからそれを」


《いいけど、なんでそんな事しなきゃいけないの?》


「北村、お前小説とか自分で書いたことってあるか?」


《あー、中学のときにちょっとだけ……》


「あれってけっこう難しいよな。こう、筆が進まないっていうかさ」


《そうそう! 書きたいことが思ったように書けないんだよねぇ!》


「そのことを踏まえたうえで読んでみてくれ。じゃ、また明日学校でな。おやすみ」


《う、うんっ! おやすみなひゃいっ! ってちょっと待っ――》



 ピッ



 ツー ツー ツー




「きっと嫉妬するぞ。間島さんに……」




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