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カガク部!  作者: タカシ
10/15

vs 窃盗犯 ②



 部室を出た私は、とりあえず犯行現場へと足を運んだ。



「犯人は犯行現場へ戻ってくるって言うしね」


「犯人はお前か!」


「ビリビリ逝っとく?」


「ごめんなさい冗談です許してください」



 千葉くんとそんなやり取りをしながら向ったのは、職員室と部室等を繋ぐ渡り廊下。雨よけに屋根と壁が付けられていて、生徒からは『トンネル』と呼ばれている。



「確かにここなら、夕方になれば十分すぎるくらい暗くなるわね」


「犯行にはもってこいの場所ってことか……」



 廊下の中ほどに立って左右を見回しながらそんな事を話していると、千葉くんが私のほうを向いて言った。



「で? これからどうするんだ?」


「うっ……」


「まさか何も考えてなかったのか?」


「ここにくれば何とかなると思ってました」



 そもそも勢いで飛び出してきちゃったからなぁ。



「そうか。ま、そんなことだろうと思ってたけどな」


「ちょっと、それどういう意味?」



 さり気に失礼なことを言われた気がする。



「それにしても暑いなここ」


「話そらすなぁ!」



 私の抗議もなんのその。胸ポケットから『そよ風君四号』を取り出し涼み始める千葉くん。そしてあろうことか、小型扇風機を顔の前に翳して「あ゛~~~」とかやり始めた。くそう、そんなの見せられたら私もやりたくなるじゃない。

 

 これが子供心ってやつ? とか思っていると千葉くんが私の顔にそよ風君を向けてきた。



「ほれ」


「ワ~レ~ワ~レ~ハウチュウジンダ~。……はっ!」



 言っちゃった……。


 思わず言っちゃった……。



「~~~っ!」



 うぅ……死ぬほど恥ずかしい。穴があったら入りたい。それでもって誰かに埋めて欲しい。



 パシャッ



「えっ?」



 顔を真っ赤にして悶えていた私は、突然聞こえたシャッター音に驚いて顔をあげた。すると千葉くんが携帯片手に「よしっ」とか言ってた。


 ももももしかして、今の撮られた!?



「ち、千葉くん。そそその写真どうするつもりなの?」



 私は震える声で恐る恐る訊ねてみる。声が上ずってしまったのは恥ずかしさから来る動揺のせいだ。



「どうって……エサ?」


「エ、エサッ!?」



 なになになに!? もしかして夜な夜な私の写真であんな事やこんな事を!?



「ヘ、ヘンタイ!」


「はぁ? ちょっ、何言い出すん――」


「千葉くんはそんな人じゃないって信じてたのに!」


「!?」


「…………はっ!?」



 一瞬の沈黙の後、私は自分が何を口走ったか理解した。



「いやああああああああああああああああああ!」



 何言ってんのわたしぃぃぃ!!


 先程とは比べ物にならない恥ずかしさに襲われた私は、自分でも驚くほどの勢いで千葉くんから距離を取る。そして背後の壁に頭を打ちつけ始める。



 ガッ!


 ガッ!


 ガッ!


 ガッ!



「わああああ! 待て待て待て待て!」



 あわてて千葉くんが止めに入って来る。でも肩を掴れたくらいじゃ私は止まらない。千葉くんの力じゃ私には敵わないんだよ。そもそも私は、ここ数分の出来事を脳内から抹消するまで止まるつもりは無いんだからっ!



「このバカ! こんなことしたって記憶は消えないんだよ!」


「そんなの嘘っ! だって千葉くんは忘れちゃってるじゃない!」



 叫ぶように言い返した私。真っ赤に染まった視界が、あの日の景色を連想させる。



 夕日に照らされた公園。



 長く延びた滑り台の影。



 一人、また一人と減っていく子供たち。



 そして……



 そして…………




「バカ女!!」



 次に私が感じたのは、冷たく硬いコンクリートの感触ではなく、なんだか暖かくて柔らかいものだった。「ぐぇっ」という声に顔を上げてみると、苦悶の表情を浮かべる千葉くんの顔があった。



「よう。やっと止まったか……」



そう言って私の頭を抱きかかえるように自分の胸に押し当てる千葉くん。



「ち、千葉くん!?」


「このバカ」


「はぅっ」



 頭の上から聞こえる吐息混じりの声に、ほんの一瞬胸が高鳴る。



「な、ななな何のつもりかな千葉くん!」


「やっぱり気づいてないのか。お前、頭から血が流れてるぞ」



 千葉くんが腕の力を少しだけ緩める。彼の胸から少し頭を離すと、私の視界に赤く染まったカッターシャツが映った。



「ひゃっ」



 思わず上がった悲鳴。それを聞いた千葉くんは、なにやらゴソゴソとしたかと思うと、私の額にハンカチを押し付けてきた。



「わふっ」


「少しの間押さえてろ」


「いいけど……いったい何で……?」


「止血だよ止血。怪我してるって言ったろ」


「そ、そんなに酷いの?」



 疑問に思いつつも、この状態では確認のしようが無いので諦めて左手で押さえる。額に触れた瞬間チクッとしたけど、それもほんの一瞬だった。



「あ、あのさ、そろそろ放してもらえないかな~」


「おっと、そうだな。ごめん」



 肩に置かれていた手から力が抜けていくのを感じ、私はゆっくりと後ろに下がった。



「ちょっと……もったいなかったかな……」


「ん? 何か言ったか??」


「う、ううん、なんでもないよ」



 危ない危ない。べつに聞かれてもかまわないけど、さっきの今でこんなこと聞かれたら、恥ずかしさのあまりまた暴走しかねない。


 千葉くんはというと、いつの間にか腹部を押さえてしゃがみこんでいた。どうやら今になって痛みが襲ってきたみたい。申し訳ない気分になったので、何か話を振ってみる。話をしていればきっと痛みも忘れちゃうよ。……私はどこも痛くないけど。


 そんなわけでちょっと気になったことを聞いてみた。



「そ、それにしても、千葉くんはどうして体を張ってまでして私を止めようとしたの?」



*   *   *



「いてててて……」



 今頃になって自己主張し始めた腹痛。我慢できずにうずくまって腹を押さえていると、北村がおずおずと声をかけてきた。



「そ、それにしても、千葉くんはどうして体を張ってまでして、私を止めようとしたの?」



 その質問に、俺は腹部をさすりながら答える。



「さあな。気が付いたら体が動いてた」



 ほんと、自分でもびっくりだ。止めるだけなら他にも色々と方法があったはずなのに、どうしてわざわざ体で受け止めたんだよ、ってな。


 こうして改めて聞かれても、その理由なんか全然分からな…………くもないか。



「まあ子供の頃からずっと、女の子の顔に傷を付けてはいけませんって教わってきたからな。たぶんそのせいじゃないか?」



 『三つ子の魂百まで』とはよく言ったものだ。ちょっと使い方間違ってるが気にしない気にしな……無理だ。気になる。この場合はどんな諺が適しているのだろう?


 …………………………(思案中)…………………………


 やっぱり『耳にたこができるほど』が一番正解に近い気がする。


 俺が諺の正しい使用法について思考を巡らせていると、北村がぼそりと呟いた。



「女の子…………」


「え?」



 今何か言ったか?



「う、な、なんでもないの!」



 何故か慌てて首を振り始める北村。ちょっと面白いけど、また頭をぶつけだされても困るので深く詮索しないでおこう。


 そう思ってしばらく彼女を眺めていると、俺はあることに気が付いた。



「北村……お前って、普段化粧とかしてるの?」



 いまだに混乱している北村の肩をがっしりと掴む。



「うぇっ! と、ととと突然何かな千葉くん!?」



 キョロキョロと落ち着き無く動いている北村の瞳。やっぱり気がついてないみたいだ。まあ仕方ないか。


 手探りで鞄からミネラルウォーター(未開封)を取り出しキャップを開ける。北村に渡してるのとは別のハンカチをペットボトルの口に押し当て、少しだけ湿らせた。



「とりあえずじっとしてろよ」



 北村の手を取りハンカチごとゆっくりと顔から離す。どうやら出血は収まったみたいだな。



「ちょっとくすぐったいぞ」


「うにゅっ」



 それだ言って、俺は湿ったハンカチで北村の顔に付着している血をふき取り始めた。時々北村が変な声を出すが気にしない。


 傷口から流れていた血は殆ど乾燥していたので、ちょっとだけ強めに擦る。化粧が落ちたらどうしようかと思ったが、どうやら北村は化粧をしていないようだ。てゆうか、その必要が無いくらい綺麗な肌をしている。


 こいつも美容には気を使ってるのか?


 うちの妹みたいに、風呂上りに美肌パックをつけてテレビを見ている北村の姿を想像してみた。……うん、無いな。


 

  *   *   *



 私達は今、部室棟から少し離れたところにある廃校舎に来ていた。十年ほど前、複数の鉄骨に不自然な劣化が見つかり急遽使用を取りやめたんだそうだ。実は宇宙人の仕業らしい……なんていう噂を聞いたことがあるけど、本当かどうかは分からない。ちなみに劣化の原因は未だに謎らしい。


 そもそも、こんな木造建築の鉄骨に宇宙人が興味を持つとは思えないしね。



「うわー、オバケでも出そうだな」



 三階建ての古びた木造建築を見上げながら、千葉くんがそんなことを言い出した。



「千葉くんって幽霊とか信じるタイプ?」


「ん? まあ…………な」



 地下室で機械を弄ってるから、てっきり「あんな非科学的なもの……」とか言うと思ってたんだけど。千葉くんって意外とその辺に拘りは無いのかもしれない。今度詳しく聞いてみようかな。


 千葉くんの仕入れた情報によると、このオンボロ校舎の右端から二番目の教室が犯人たちの根城らしい。なんでもこの引ったくり事件、学校の不良グループの仕業なんだそうな。いろんな生徒から盗んだ物を売ってお金を稼いでいるらしい。楽して設けようって魂胆が丸見えだ。



「ったく。これだからゆとりは……」



 隣で千葉くんが呟く。



「私たちもゆとり教育受けてるんだけどね」


「それはそれ、これはこれだ」



 そう言い捨ててツカツカ歩き出す千葉くん。慌てて着いて行くと、千葉くんは校舎には入らずにUターン。目的地からだいぶ離れた所にある手洗い場に向っていた。


 手洗い場には水避けようにコンクリートでできた大きめの仕切り板……もとい壁がある。そこに身を隠すと、千葉くんは携帯を取り出して不良の溜まり場へとカメラを向けた。……証拠写真でも撮ってるのかな?



「数は四人か。情報どおりだ」



 どうやらカメラのズーム機能を使って敵地を視察してるみたい。携帯って便利だなー。私もやってみよう。…………見えない!? たぶん光とかの関係だと思うんだけど、めいっぱいズームしても、中の人数までは分からない。



「千葉くん、私のだと全然見えないんですけど……うっそ!」



 千葉くんのカメラを覗き見ると、そこには机を囲んで談笑する不良達が映っていた。それも一人ひとりの表情がわかるくらい超鮮明に。ちょっとこれどういうこと!?



「この携帯、部室の発明品使って魔改造してるからな。太陽電池の充電スピードなんか市販品の10倍だ」


「そ、そういうの、職権乱用って言うんだよ……」



 ヒラヒラと携帯を振る千葉くん。そのちょっと得意げな顔に、いつもなら少し見惚れたりするのに、今回ばかりはそんなことは無かった。だって……うらやましい!!



「私のも後で改造して! お願い!!」


「お、おう……」



   *   *   *



「マイネーム、イズ、ヤンキー! アイム、フロム、ジャパニーズ!」


「うおっ!? センさんいつの間に英語覚えたんッスか!?」


「こないだな、小一時間ほど中学ン時のダチに教えてもらったんだわ」


「さすがセンさんッス!」


「たった一時間でそこまでエーゴ覚えるなんて、俺たちじゃあとうていマネできませんぜ!」


「うわっはっはっはっはっ! そう褒めんなよ! 後でオメェらにも教えてやっからよ」


「うおっ!? マジッスか!?」


「さすがセンさんッス!」


「たった一時間でそこまでエーゴ覚えるなんて、俺たちじゃあとうていマネできませんぜ!」


「これでいつ外国からの転校生が来ても大丈夫だぜ。悪そうな俺らがペラペラと英語を話すなんて思いもしねぇだろう。あまりのギャップにメロメロになるに違いねぇ!」


「うおっ!? ナイスなアイディアッス!」


「さすがセンさんッス!」


「たったそれだけのためにエーゴ覚えるなんて、俺たちじゃあとうていマネできませんぜ!」


「おわっはっはっはっはっ! 心配すんな。パツキンの女ができたら、ちゃーんと紹介してやっからよ!」


「うおっ!? マジッスか!?」


「さすがセンさんッス!」


「たった一人、来るかも分からない外国人のためにエーゴ覚えるなんて、俺たちじゃあとうていマネできませんぜ!」


「うわっはっはっはっはっ! これくらい俺にとっちゃぁなんてことないぜ! あ痛!?」


「うおっ!? どうしたんすかセンさん!?」


「いや、なんか頭に……っと、なんだこりゃ? モ○スターボール? それにしちゃぁ色が妙だな……マリモか?」


「さすがセンさんッス!」


「たったそれだけで正体を見破るなんて、俺たちじゃあとうていマネできませんぜ!」


「待て待て、まだ安全と決まったわけじゃ……うおっ!? 割れた!? って突然けむりがあちちちちちちち!」


「うおっ!? センさん大丈夫ッスか!?」


「ゴホッゴホッ! 何だ? 服が湿ってやがる……?」




『し~びれるぞ~』




「「「「あばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!」」」」



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