第4章:永遠を誓う唇
パーティーは終盤。高揚した空気の中に、突如として冷ややかな毒が混じった。ホールの中心、マイクを握ったのはキャサリンだった。彼女の傍らには、一枚の書面を掲げた顧問弁護士が立っている。
「皆様、注目してください!この美しい愛の物語は、すべて真っ赤な嘘ですわ。私は掴んだのです。アレックス・キングスレイと、その卑しい秘書が交わした『偽装婚約契約書』のコピーを!」
会場に激震が走った。ソフィーが顔を青くし、招待客たちの視線がナイフのようにオリヴィアを刺す。オリヴィアは指先を震わせ、隣に立つアレックスを見上げた。
(終わった。私のキャリアも、彼とのこの時間も……)
恐怖で足がすくむ彼女の肩を、しかし、アレックスの逞しい腕が強く抱き寄せた。
「キャサリン。その紙切れが何だというんだ?」
アレックスの声は、凍てつくほど冷酷で、同時に圧倒的な王者の風格を湛えていた。彼は歩み寄り、キャサリンの手からその紙を奪い取ると、一瞥もせずにその場で粉々に引き裂いた。
「契約だと?笑わせるな。そんな紙切れ一枚で縛れるほど、僕の感情は安っぽくない」
彼は翻り、震えるオリヴィアの頬を大きな手で包み込んだ。全ロンドンの名士たちが息を呑む中、アレックスは彼女の瞳だけを見つめ、熱く、そして掠れた声で語りかけた。
「……確かに、始まりは契約だった。だが、今の僕がどれほど自制心という名の地獄と戦っているか、君には想像もつかないだろう。オリヴィア、君が僕の視界に入るたびに、僕は仕事どころではなくなる。君の知性に平伏し、その唇からこぼれる毒舌にさえ昂ぶりを感じ、他の男が君を見るたびに、その男の目を抉り出してやりたいという衝動に駆られるんだ」
「アレックス……そんな、大勢の前で……」
オリヴィアの頬が林檎のように赤く染まる。恥ずかしさと、それを上回るほどの、抗いがたい熱い悦びが全身を駆け巡る。アレックスは彼女の額に自分の額を押し当て、熱い吐息を共有した。
「……率直に言わせてもらう。今すぐ、この宝石もドレスもすべて剥ぎ取って、君をここから連れ去りたい。そして、誰の目にも触れない場所で、君が僕の名を泣いて呼ぶまで、死ぬほど深く愛し続けたいと……これほどまでに強く、狂おしく願っているのは、契約書に書かれた義務ではない。僕の魂の、剥き出しの飢えだ」
静まり返ったホールに、オリヴィアの小さな震えだけが伝わっていく。彼女はもう、男性を恐れる「鉄の処女」ではなかった。愛する男に求められる一人の女性として、彼の胸に顔を埋めた。
「……私も、アレックス。契約書なんて、もう、いりません……」
アレックスは勝利を確信したように薄く笑うと、キャサリンを一瞥し、冷たく言い放った。
「聞いたか?次に彼女を侮辱すれば、ウェントワース家の資産すべてを市場から消し去ってやる」
数ヶ月後。
キングスレイ・ホールディングスのCEOオフィス。オリヴィアは、新規プロジェクトの責任者として、自らのデスクで完璧なプレゼン資料を完成させていた。そこへ、ドアもノックせずにアレックスが入ってくる。
「オリヴィア、今夜のチャリティ・ガラだが……」
「仕事中よ、キングスレイ社長。公私の区別はつけてくださいと、以前どなたかがおっしゃいましたわ」
悪戯っぽく微笑む彼女に、アレックスは我慢ならないといった様子で歩み寄り、デスクに手をついて彼女を覗き込んだ。
「……ああ、言ったな。撤回する。今の僕には、君が僕の妻であるという事実以外、どうでもいいんだ」
彼はオリヴィアの椅子を回転させ、自分の方を向かせると、そっとデスクの下で彼女の手を握った。
「愛している、オリヴィア。君のその鋭い知性も、僕だけに見せる震えも、すべてが僕の宝物だ」
ロンドンの夕陽が、二人の重なる影を長く、美しく伸ばしていく。それは契約から始まった、世界で最も真実で、情熱的な愛の物語の、輝かしい始まりだった。




