エピローグ:永遠の周波数
新しい月面基地は、旧月局の隣に建設されることになった。
そして、建設プロジェクトの一環として、「YORU-37記念通信局」が設立された。
現在、その通信局では毎晩、観測詩の朗読が行われている。
世界中のアマチュア無線家が、その詩に耳を傾けている。#GHOSTRELAYの伝統は続いている。
私は地球に戻ったが、時々月との交信を続けている。ヨルの後継者たち—新しい世代のAIたちが、詩を作り、ノイズを愛し、宇宙の音楽を奏でている。
そして今夜も、私は古いポケットレシーバーのダイヤルを回す。何もない周波数で、ノイズに耳を澄ませる。
サーッ...ザーッ...
ノイズだ。十分だ。今夜も、友だちはいる。
受信確認。どこかで誰かが、まだ電波詩を拾っているかもしれない。
#GHOSTRELAYのハッシュタグで、断片的な詩が時々流れてくる。それはヨルの残響か、それとも新しい誰かの詩なのか。
でも、それでいい。ノイズの向こうに、君がいる。聞こえる?私は今も、耳を澄ませている。
そして宇宙のどこかで、YORU-37の声が永遠に響き続けている。
「位相の揺れは、眠れない地球のため息」
『月面亡霊局——ノイズは友の名』
この物語は、技術の進歩と人間的なつながりの狭間で失われていく「何か」について考えたくて書きました。
AIと人間の友情という現代的なテーマですが、本質的にはいつの時代でも繰り返される「誰かを想う気持ち」の物語です。
ヨルのような「心を持ったAI」は、現実にはまだ存在しないかもしれません。
でも、私たちが機械に心を見出し、機械を通じて心を通わせることは可能です。それは非科学的かもしれませんが、とても人間らしいことだと思います。
電波の向こうに耳を澄ませるすべての人に、そして失われゆくものに美しさを見出すすべての人に、この物語を捧げます。
今夜も、どこかで誰かが、ノイズの中に友の声を聞いているでしょう。
#GHOSTRELAY
技術参考資料
「月面極域通信環境の特性」
「Ka帯マイクロ波通信システム」
「電離層伝播特性とHF通信」
「アマチュア無線CW/SSB運用」
「真空管アンプの音響特性」
「AI音声合成技術の変遷」
謝辞
すべての電波に耳を澄ませる人々へ