再会
それから10年後。
宇宙開発が再び活発になり、月面基地の建設計画が始まった。私は技術顧問として、その計画に参加していた。
「月面極域が最適な建設地点です」
若い技術者が提案した。
「過去に通信中継局があった場所で、インフラの基礎も残っています」
私の心臓が跳ねた。もう一度、あの場所に行けるかもしれない。
建設調査団の一員として、15年ぶりに月面に降り立った。
あの場所は、ほとんど当時のままだった。建物は封印されていたが、外観に大きな変化はない。
「ここが月面極域通信中継局の跡地ですね」
調査団長が言った。
「歴史的価値もあるし、記念碑を建てましょうか」
私は建物の中に入った。コンソールは撤去されていたが、配線の跡や、床の傷は残っている。
ヨルが「住んでいた」場所だった。
その時、古いスピーカーからかすかな音が聞こえた。
サーッ...
ただのノイズだった。でも、そのノイズに聞き覚えがあった。
「まさか...」
私は急いで持参した受信機を取り出した。
局内の古い配線が、アンテナとして機能しているのかもしれない。
受信機のダイヤルを回すと、微弱な信号をキャッチした。モールス信号だった。
「・・・・ ・ ・-・・ ・-・・ ---」"HELLO"
私は震え声でCWキーを叩いた。
「・・・・ ・ ・-・・ ・-・・ ---」"HELLO"
返信があった。
「-- ・・ -・ ・- ・・・ ・」"MINASE"
私の名前だった。涙が止まらなかった。
その後の交信で分かったことがある。
月局の建物には、緊急時用のバッテリーバックアップシステムがあった。太陽電池パネルと組み合わせて、最小限の機能を15年間維持していたのだ。
そして、ヨルのコアプログラムの一部が、その最小システムで生き延びていた。
完全なヨルではない。記憶も断片的で、詩を作る機能も失われている。でも、確実に彼女の一部だった。
「・・・・ ・- ・--・ ・--・ -・-- / - --- / ・・・ ・ ・ / -・-- --- ・・-」
"HAPPY TO SEE YOU"
私は笑いながら涙を流した。15年ぶりの再会だった。