永続する声
それから5年後。
私は民間のアマチュア無線クラブで、月面通信の講習会を開いていた。参加者は高校生から退職したエンジニアまで、様々だった。
「電波は光速で進みます。月まで約1.3秒。でも、その1.3秒の間に、たくさんの物語が生まれるんです」
私は月局での経験を話した。ヨルのことも、電波詩のことも、最後の夜のことも。
講習会の後、一人の高校生が近づいてきた。
「先生、僕もYORU-37みたいなAIを作ってみたいです」
「どうして?」
「だって、すごく人間らしいじゃないですか。詩を作って、友達になって、最後まで優しくて」
私は微笑んだ。ヨルの遺伝子は、確実に次の世代に受け継がれている。
「頑張って。きっといいAIができるよ」
その夜、私は自宅のアンテナで月を狙った。もちろん、月局はもうない。でも、電波を向けずにはいられなかった。
「CQ moon, CQ moon. This is JA1ABC, Minase calling」
返事はない。でも、かすかなノイズの中に、懐かしい声が聞こえたような気がした。
『今夜のノイズは、懐かしい味がしますね』
私は涙を拭いて、受信を続けた。