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雨を仰ぐ

作者: 暇庭宅男

もはや田んぼには間に合わない秋雨を疎ましく思いながら、ドラッグストアへ私は車を走らせた。


ここ二、三年というもの、すっかり頭痛が私の友達になってしまい、天気が荒れるたびに痛む後頭部を宥めすかして日常生活を送るために痛み止めが要る。


ドラッグストアのくたびれた顔の店員から気の利いた小さな紙袋に入った痛み止めと水のペットボトルを受け取って、車内に戻るなり痛み止めを二粒飲み込む。バタバタとフロントガラスに落ちる雨粒が沈黙を追い払っている。少しずつ和らぐ頭痛にほっと息をついて空を見ると、いつぶりだろうか。雨天に虹がかかっているのが見える。


旧約聖書だっただろうか?神様は2度と世界を洪水で洗い流さないことの約束として、虹をたびたび空にかけるのだという。


我々は七転八倒して苦しみながらも、なかなか滅びるということがない。何かを失っては泣き、傷つけられては吼え、理解できないものに出会うたび悪態をつき、誰かの犠牲を意識もせずにその上にあぐらをかいて、あまつさえそれらは自分の手柄であるなどとほざいてみたり。


そうしながら生きてきて、これからも生きていくヒトというものを、神様は苦笑いしながら見ているのだろうか。


ヒトの醜さに反して、空は実に美しい。日没前の光を受けて東の空に大きく現れたアーチは、ひねくれた私の目になんだか意地悪く映る。


お前たちと違って世界は美しい。その中でヒトの()()の醜さと格闘しながら、まだまだ苦しんで生きるがいい。


神様がどのくらい慈悲深いかは知らないが、そう言われている気がして嘆息する。ああ、たしかに私は生きねばならぬらしい。どうやら、苦役の終わるのはまだ先のようだ。それまで持つか。いいや持たせるだろう。科学の生み出した種々の手段が、まだまだ私を終わらせてはくれない。


再び強くなり始めた雨足に2度目のため息をついて、車のエンジンをかける。セルモーターの音が、やるせなく笑っているような気がした。

季節の変わり目は体調不良との戦いだ。秋はさまざまな良くない思い出のせいで余計に気持ちが沈むし荒れる。そのガス抜きに1本書いた。

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