第9話:医療のための魔道具開発
マナカートの成功により、ミリアの工房はさらに多くの依頼を受けるようになった。生活、物流、移動の分野で次々と成果を挙げるミリアだったが、そんな中で彼女の元にひとつの相談が持ち込まれた。それは、「医療現場で使える魔道具の開発」という要望だった。
ある日、王都の医師ギルドから使者がやってきて、リーダー格の医師であるエドワードがミリアに頭を下げて言った。
「ミリア殿、私たち医師ギルドは、あなたの発明に感銘を受けています。そこでお願いがあるのですが……」
「何でしょう?」ミリアは少し緊張した面持ちで問いかける。
「私たちの現場では、治療に必要な器具や薬品が不足しているうえ、病気の診断や治療にも時間がかかり、多くの命を救えない状況にあります。もしあなたの技術で、医療を支える魔道具を作れないでしょうか?」
ミリアは真剣な表情でその話を聞いた。
「医療を支える魔道具……それは、どんな機能を持ったものが必要なのでしょうか?」
エドワードは続けた。
「例えば、病気の原因を素早く特定する装置や、治療の効果を高める魔道具です。特に感染症が流行した場合、診断が遅れることで多くの命が奪われてしまいます。」
「なるほど……」ミリアは静かに考え込んだ。そして、小さく頷いて言った。
「わかりました。私の技術でどこまでできるかわかりませんが、全力で挑戦してみます。」
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診断装置の開発
医師ギルドとの話し合いを重ねた結果、ミリアはまず「病気の診断を迅速に行う装置」を作ることに決めた。医療現場では、患者の症状だけで判断するには限界があり、病気の原因を見逃してしまうことがある。それを防ぐため、体内のマナの流れや健康状態を調べる魔道具を開発することにしたのだ。
「まずは体内のマナを感知し、異常を検出する仕組みを作ろう。それを元に、症状の原因を特定できれば、治療が早くなるはず。」
ミリアは工房に戻り、リオとエマに相談した。
「ねえ、マナの流れを検知する装置って、どう思う?」
リオは腕を組んで考え込んだ。
「それって、すごい精密な感知技術が必要だよな。マナの流れって微妙な変化が多いし……。」
エマがアイデアを出す。
「それなら、以前マナランプに使った光石を応用できないかしら? あの光石はマナの動きを感知する特性があるから、それをもっと精密に加工すれば使えるかもしれない。」
「それだ!」ミリアは目を輝かせた。「光石を使えば、体内のマナの流れを視覚化できる装置が作れるかもしれないわ!」
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試行錯誤の日々
ミリアたちは早速、光石を使った試作装置を作り始めた。装置は腕に巻きつける小型のものにする予定で、光石を加工してセンサーとして利用し、体内のマナの流れを感知して異常を見つける仕組みだ。
だが、最初の試作品では感知範囲が広すぎて、正確な診断ができなかった。
「これじゃ、ただマナが流れているのが見えるだけで、異常があるかどうかわからないわね……。」
リオが言った。
「もっと範囲を絞れればいいんだろうけど、それには感知部分をさらに改良する必要があるな。」
エマも続けた。
「光石をもっと細かく加工して、特定のマナの周波数だけを拾うようにできないかしら?」
そのアドバイスを受け、ミリアは装置の感知部分を徹底的に改良した。何度も加工を繰り返し、最終的に特定の異常なマナの流れを感知する仕組みを作り上げた。
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成果と感動
完成した試作品を持って、ミリアは医師ギルドに向かった。エドワードとギルドの医師たちの前で装置を実演する。
患者役のギルド職員に装置を装着し、動作を確認すると、光石がわずかに輝き始め、体内のマナの流れを示す光の模様が浮かび上がった。そして、異常がある箇所では色が変わるようになっていた。
「これは……すごい! 異常な箇所が一目でわかる!」
エドワードは驚きの声を上げた。
「ミリア殿、これなら診断が格段に早くなります。この装置が普及すれば、多くの命が救えるでしょう!」
周囲の医師たちからも感嘆の声が上がり、ミリアの装置はその場で採用が決まった。