第7話:家庭のための「マナヒーター」
マナランプの成功から数ヶ月後。市場ではランプの評判が広がり、ミリアの元には生活を便利にする魔道具の依頼が相次いでいた。だが、ミリア自身は新たな課題に取り組み始めていた。それは寒冷地でも使える「暖房具」の開発だった。
「これから冬が来るわ。寒い地域では暖房が命に関わる大事なものになる。でも、現状の暖房は薪や石炭が主流で、コストも高いし、効率が悪い……。」
工房で図面を広げながら、ミリアは一人考え込んでいた。エマが横で湯気の立つお茶を運びながら話しかける。
「確かに、暖房具の話は地方の商会からも相談されてたわね。薪を買えない家庭では、冬を乗り越えられない人もいるって。」
リオも資料を手に加わった。
「それに、今の薪や石炭だと煙も出るし、家の中が煤だらけになるって聞く。ミリアのことだ、きっといいアイデアがあるんだろう?」
「もちろんよ。」ミリアは微笑みながら新しい設計図を見せた。
「これが『マナヒーター』。マナを熱エネルギーに変換して、煙や煤を出さずに部屋を暖める装置よ。」
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試作の壁
理論上は可能だと思えたマナヒーターだったが、試作段階で問題が山積みだった。マナを熱に変えるプロセスでは、熱の放出が不安定で、装置が過熱してしまうのだ。
「これじゃ危険すぎるわね。何か熱を安定させる仕組みが必要……。」
ミリアは新型エンジンの開発で使った「マナ循環技術」を応用しようと考えた。エンジンで培った経験を元に、マナを効率的に流し、熱を均等に放出する構造を設計したのだ。
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仲間たちの支え
ミリアの苦戦を見て、リオが声をかける。
「なあ、ミリア。今の問題は熱が溜まりすぎることだよな? だったら、熱を逃がすための冷却機構を一緒に考えようぜ。」
「それと、素材にも問題があるかも。」エマも続けた。「今使っている金属じゃ熱に耐えられないのかもしれないわ。耐熱性の高い合金を探したほうがいいかも。」
彼らの協力を得て、ミリアは素材の調達から設計の見直しまで、改良を重ねていった。そして数週間後、ついに安定した熱を供給できる試作品が完成した。
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効果を試すとき
完成したマナヒーターの試作品を、工房で試験運用することにした。リオが装置を点火し、マナの流れを調整すると、部屋がじんわりと暖かくなっていった。
「すごい……! 煙も煤も全然出てないし、部屋全体が均等に暖まってる!」
エマも驚きながら触れてみる。
「これなら寒冷地でも安全に使えるわね。薪を集める手間もなくなるし、コストも大幅に下がるはず。」
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市場での試運転
ミリアたちは早速、完成したマナヒーターを市場で試験的に販売することにした。最初の購入者は寒冷地から来た商人だった。
「これが本当に煙を出さずに暖められるっていうのか?」
「ええ、試してみてください。」ミリアは自信たっぷりに説明した。
商人はその場で装置を稼働させ、暖かさと安全性に感嘆の声を上げた。
「これは素晴らしい! これなら雪深い地方の人々にも喜ばれるだろう。」
やがてマナヒーターの評判は瞬く間に広がり、多くの商人や住民が注文を申し込んできた。
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変わる暮らし
ミリアの工房では、マナヒーターの量産が始まった。地方の工房と提携し、装置の製造と普及に力を注いだ。その結果、王国全土で寒冷地の暮らしが劇的に変わり、人々の生活が大きく改善された。
工房の帰り道、街中の家々から漏れる暖かな光と、マナヒーターを囲む人々の笑顔を見て、ミリアはふと立ち止まった。
「私がやりたかったのは、こういうことなんだ。この世界の人々が、前よりも少しだけでも快適に、幸せになれる道具を作ること。」
リオが後ろから声をかける。
「ミリア、お前の魔道具がどんどん世界を変えていってるな。次は何を作るつもりだ?」
ミリアは少し考えてから微笑んだ。
「次はもっと大きなことを考えてるわ。マナをもっと活用すれば、移動や運搬も劇的に変えられるはず。それに……もっとたくさんの人を幸せにしたい。」
その目には、新たな目標に向けた強い決意が宿っていた。ミリアの挑戦は、まだ始まったばかりだった。