第5話:魔道具普及への挑戦
ミリアの「マナ蒸気エンジン」は錬金術学校内で話題となり、彼女の名声はさらに高まった。しかし、試作品はあくまで実験段階のものであり、実用化するためには数々の課題が残されていた。特に問題となったのは、素材のコストとエネルギー効率だった。
ある日、リベッカがミリアの元を訪れた。彼女の表情は真剣そのものだった。
「ミリア、この装置を世に広めるには、もっと安価な素材で作る必要があるわ。今のままでは貴族や大商人しか手に入れられないものになってしまう。」
ミリアはリベッカの言葉に頷いた。
「確かに、私の目指す魔道具は、誰もが使えるものでなければいけない。もっと身近な素材を使う方法を考えます。」
---
工房に戻ったミリアは、リオとエマを交えて議論を始めた。
「現状だと、動力を効率化するために希少な魔晶石を使ってるけど……これをもっと一般的な素材で代替できないかな?」
エマが考え込みながら口を開く。
「魔晶石の代わりに、加工が容易な鉱石を使うのはどう? 純度を上げられれば、エネルギー効率もある程度保てると思うけど。」
リオが頷きながら続けた。
「それなら、地元の採掘場で手に入る鉄鉱石を試してみる価値はあるな。加工が難しいけど、鍛冶職人に協力を頼めば何とかなるかもしれない。」
ミリアは二人の意見を聞きながら、早速実験を開始することにした。彼女は試作品を改良しつつ、学校の工房で地元の素材を使った新しい設計を組み立てていった。
---
数週間にわたる試行錯誤の末、ミリアたちはついに成功した。新しい「マナ蒸気エンジン」は、地元で採れる鉄鉱石を主な素材として使い、魔晶石の代替として精製したマナを封入した特殊な管を搭載していた。
エマが完成品を見ながら声を上げた。
「すごい! コストは半分以下になったし、これなら製造数を増やせそう!」
リオも感慨深げに頷く。
「これが実用化できれば、農村や中小の商人たちも恩恵を受けられるな。」
ミリアは二人に感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう、二人とも。これで少しずつだけど、私の目指す『誰もが使える魔道具』に近づいてきた気がする。」
---
完成した新型エンジンを広めるため、リベッカはミリアに提案した。
「この装置を王都の技術展示会に出してみない? あの場で実演すれば、多くの商人や貴族が注目してくれるわ。」
技術展示会――それは王国中の発明家や錬金術師たちが最新の技術を披露し合う場であり、成功すれば一躍名を広めることができる大きなチャンスだった。
ミリアはその提案を即座に受け入れた。
「やります! この装置を見てもらって、多くの人に使ってもらえるようにしたい!」
---
展示会当日、ミリアたちは学校のブースに新型エンジンを持ち込み、実演を行った。観客たちは、簡単な操作で高効率に動く装置に目を奪われ、次々と質問を投げかけてきた。
「これは農業にも使えるのか?」
「運搬用のカートに取り付けられないか?」
ミリアは一つ一つ丁寧に答えながら、この装置がどれほど多くの分野で活用できるかを説明した。やがて、ある貴族が彼女に近づいてきた。
「君、この装置を大量生産するつもりはないか? 私の領地でもぜひ使いたい。」
その言葉を皮切りに、他の商人や貴族たちからも次々と依頼が舞い込んできた。ミリアは一瞬戸惑ったが、心を決めて宣言した。
「この装置を、私の手で普及させます! 貴族だけでなく、すべての人々の生活を豊かにするために!」
---
技術展示会の成功を機に、ミリアは学校と協力して製造のための新たな工房を設立する計画を進めることになった。錬金術と科学の融合による魔道具の実用化――それは彼女の夢の第一歩にすぎなかった。
「次はもっと効率的な装置を作るわ。人々の生活が変わる未来を、私が作ってみせる!」
彼女の決意はますます強まり、次なる挑戦が始まろうとしていた――。