第4話:錬金術と科学の融合の第一歩
ミリアが13歳を迎える頃、錬金術学校では彼女の才能が完全に認められ、講師や同級生たちからも一目置かれる存在になっていた。彼女の発明はどれも実用的で独創性に溢れており、特にマナの効率的な活用を追求した魔道具は、講師たちをも驚かせるものばかりだった。
ある日、ミリアはリベッカに呼び出され、特別な課題を与えられた。
「ミリア、君の研究は学校内だけではもう狭すぎる。私たちも、君が錬金術をどこまで発展させられるのか見てみたい。そこで、この課題を提案するわ。」
リベッカはそう言って、厚手の古びた書物をミリアに渡した。それは数世代前に記された錬金術の研究書だった。
「この書物には、失われた技術や未完成の研究が記されている。君にこれをもとに、新しい魔道具を作ってもらいたいの。」
ミリアは書物を受け取りながら、期待とプレッシャーを同時に感じた。
「未完成の研究……? 私がそれを完成させるんですね。やってみます!」
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夜な夜な、ミリアは書物の中身を読み解く作業に没頭した。それは難解な理論や不完全な設計図で埋め尽くされており、一見すると何を意図しているのかさえわからなかった。
「これ、どういう仕組みなんだろう? あ、この魔力循環の記述……マナの流れを調整するための技術みたい!」
ページをめくるごとに、彼女の頭の中には新しいアイデアが浮かんできた。そして、それを自分の前世の知識と照らし合わせることで、彼女はひとつの結論にたどり着いた。
「これ、蒸気機関みたいな仕組みに応用できるんじゃない?」
マナを動力として利用し、それを循環させることで持続的なエネルギー供給を可能にする――それは彼女の世界にはなかった「科学」と「錬金術」の融合の兆しだった。
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試作を始めるため、ミリアは学校内の工房に籠った。従来の錬金術では使われないような部品や素材を組み合わせながら、彼女は何度も失敗を重ねた。
「うーん、ここが問題ね。マナの圧力が一定にならない……あ、圧縮機構を追加すれば安定するかも!」
同級生のリオとエマも、彼女の熱意に感化されて手伝いを申し出た。
「相変わらず大変そうだな。俺たちも手伝うから、一人で抱え込むなよ。」
「そうよ。ミリアのアイデアを形にするの、私も参加したい!」
ミリアは二人の協力を受け入れ、試作品の完成を目指した。彼らの技術と発想が加わり、試作は順調に進み始めた。
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数週間後、ついに試作品が完成した。それは「マナ蒸気エンジン」と名付けられた装置だった。外見はシンプルだが、内部にはマナを動力源とする圧縮機構が搭載されており、従来の魔道具とは一線を画すものだった。
「この装置があれば、手動で行っていた作業を全自動で進められるようになるはず……!」
彼女たちは試運転を開始した。エンジンにマナを注ぎ込むと、内部の機構が動き始め、滑らかにエネルギーを供給し続けた。そして、エンジンに接続された攪拌装置やベルトコンベアが正確に稼働を始めた。
「動いた! すごい、ちゃんと動いてる!」
リオとエマも歓声を上げ、ミリアは達成感に満ちた笑顔を浮かべた。しかし、それと同時に改良点がいくつも見えてきた。
「でも、これじゃエネルギー消費がまだ大きいわね。もっと効率化しないと……」
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完成した試作品をリベッカに見せると、彼女は目を見張った。
「……ミリア、これは革命的だわ。この装置が普及すれば、錬金術の在り方そのものが変わるかもしれない。」
リベッカはその装置を学校の特別研究として採用し、さらなる改良を進めるために資材と設備を提供することを約束した。
「ミリア、これからは学校全体を巻き込んで、この装置を完成させましょう。そして、それを世に広めるのよ。」
ミリアは力強くうなずいた。「はい! この装置をもっと便利で実用的なものにします。そして、誰もが使える魔道具にしてみせます!」
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こうしてミリアの発明は、錬金術学校の中心的な研究テーマとなり、彼女はさらに高度な技術を追求する日々を送ることとなった。錬金術と科学の融合という未知の領域に挑む彼女の歩みは、やがて大きな波紋を広げていくことになる――。




