第31話:営業マンの面接と商会設立の提案
――数日後、工房の会議室で営業マンの面接が始まった。
最初の候補者は、スーツをきっちり着こなし、自信に満ちた男だった。
「初めまして。前職は大手商会で営業をしていました。」
「あなたの強みは?」
ミリアが尋ねると、男は即答した。
「交渉力です。顧客のニーズを的確に把握し、最適な提案をするのが得意です。」
「なるほど。でも、私たちの魔道具は普通の商品とは違うわ。それをどう売るつもり?」
男は少し考えてから答えた。
「実演販売を強化し、顧客に直接体験してもらうことで魅力を伝えます。」
リオとエマが顔を見合わせる。
「ふむ、悪くないな。」
次の候補者は、少し控えめな女性だった。
「初めまして。私は前職でマーケティングを担当していました。」
「マーケティング?」
エマが興味を示す。
「はい。市場調査をして、どの層にどのようにアプローチすれば売れるかを分析する仕事です。」
「それは面白いな。」
リオが腕を組む。
「あなたの提案を聞かせて。」
ミリアが促すと、女性は落ち着いた声で説明した。
「ターゲット層を明確にし、戦略的に広告を打ちます。例えば、冒険者向けならギルドで体験会を開く。貴族向けなら高級サロンでの展示をする、といった形です。」
「ほう、そんな手があるのか。」
リオが感心したように頷く。
ミリアも満足そうに微笑む。
「ありがとう。とても参考になったわ。」
こうして面接は進み、最終的に3名の候補者を採用することに決まった。
「よし、これで営業の基盤が整ったわ。」
ミリアは満足そうに言った。
「でも、ここで終わりじゃない。次は……商会の設立よ。」
「商会!?」
リオとエマが同時に驚きの声を上げる。
「そう。私たちの工房だけでなく、正式な商会を作れば、もっと自由に販路を開拓できるわ。」
「確かに……自分たちの商会があれば、卸業者に頼らず直接取引も可能になるな。」
「そういうこと!」
ミリアは力強く頷いた。
「私たちの目指すのは、ただの工房じゃない。発明と販売の両方を手がける、総合的な魔道具商会よ!」
「でも、商会を作るって、そんなに簡単なことじゃないよな?」
リオが慎重な表情を浮かべると、エマも同意するように頷いた。
「そうね。資金も必要だし、許可を取るための手続きもあるし、商会の信用を築くのも大変よ。」
ミリアは少し考え込んだが、すぐに明るく笑った。
「だからこそ、しっかり計画を立てて進めるのよ! 私たちには優秀な職人がいるし、新しい営業担当も加わった。あとは、販売の仕組みを整えるだけ!」
「まあ、お前がそこまで言うなら、やってみる価値はありそうだな。」
リオは肩をすくめながらも、やる気を見せた。
「具体的に、どうやって進めるの?」
エマが尋ねると、ミリアは手元のノートを開き、いくつかの項目を指でなぞった。
「まず、商会の正式な登録をするために、王都の商会ギルドに申請を出す必要があるわ。商会を名乗るためには、最低でもある程度の初期資金と取引実績が求められるの。」
「初期資金か……結構かかりそうだな。」
リオが少し渋い顔をするが、ミリアは自信ありげに笑った。
「そこは心配いらないわ。最近の魔道具の売上を元手にして、さらに新商品をいくつか開発して先行販売すれば、十分な資金は集まるはずよ。」
「新商品?」
エマが興味を示すと、ミリアは嬉しそうに頷いた。
「そう! 例えば、携帯型の小型照明具とか、より効率的な熱変換魔道具とか……実用的なものを増やして、市場に出すの。」
「なるほど、実用性のある商品なら確実に売れるな。」
リオも納得した様子だ。
「じゃあ、商会の名前はどうするの?」
エマが聞くと、ミリアは少し考えた後、にっこりと笑った。
「『アルケミア商会』なんてどうかしら?」
「アルケミア……錬金術を意味する言葉か。」
リオは腕を組んで考え込んだが、すぐに頷いた。
「シンプルでいいな。錬金術と科学の融合を目指す私たちにぴったりだ。」
「いいんじゃない? 一度決めたら簡単に変えられないし、この名前でいきましょう!」
エマも賛成し、商会の名前が決定した。
「じゃあ、次は商会ギルドに登録しに行こう!」
ミリアは勢いよく立ち上がり、リオとエマもそれに続く。
こうして、ミリアたちは『アルケミア商会』設立に向けて、本格的に動き出すのだった。




