第10話:治療の革命、マナスプレーの開発
診断装置の成功から数ヶ月が経ち、ミリアの工房では医療用魔道具の開発がさらに進んでいた。診断が迅速になったことで、多くの患者が早期治療を受けられるようになったが、治療自体の課題もまだ多かった。特に、傷口の治療や薬の投与に時間がかかることが問題となっていた。
医師ギルドのリーダー、エドワードが再びミリアの工房を訪れる。彼の表情は真剣そのものだった。
「ミリア殿、診断装置のおかげで命を救える患者が増えました。しかし、感染症の治療や傷口の消毒に手間取ることが多く、現場はまだ混乱しています。」
ミリアはエドワードの話に耳を傾けながら、質問した。
「具体的には、どういう問題があるんですか?」
「例えば、傷口を消毒して薬を塗るには手作業が必要ですし、感染症を防ぐためには大量の薬品を用意しなければならない。それに、消毒薬が傷口に触れると痛みが強く、患者に負担をかけてしまうんです。」
「なるほど……」ミリアは考え込んだ。そして目を輝かせながら言った。
「それなら、薬をもっと簡単かつ均一に広げられる仕組みを作ればいいかもしれません。」
「仕組み、ですか?」
「はい。例えば薬を霧状にして噴射する装置――そう、『マナスプレー』を開発すれば、消毒や薬の投与を素早くできるんじゃないかしら?」
エドワードは驚きながらも期待の目を向けた。
「それが実現すれば、医療現場にとって革命的な道具になるでしょう!」
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試作の開始
ミリアはすぐにマナスプレーの設計に取りかかった。基本的な構造は、マナを利用して薬品を霧状に変換し、一定の圧力で噴射する装置だ。前世で見たスプレー缶の仕組みを参考にしながら、錬金術でそれを実現する方法を模索した。
リオが設計図を見ながら感心したように言った。
「なるほど、これはマナを使って液体を微粒子にする仕組みなんだな。でも、この圧縮部分は繊細すぎて壊れやすくないか?」
エマも図面を覗き込みながら口を開いた。
「それと、薬品をどのくらいの量で噴射するかを調整する仕組みが必要ね。誤って薬を多く使いすぎたら患者に負担がかかるわ。」
「確かに……」ミリアは二人の意見に頷きながら、調整機構を追加し、耐久性の高い素材を選び直すことにした。
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最初の試作品と問題点
数日後、最初の試作品が完成した。工房のテーブルに置かれたそれは、手に持てるほどの小型の筒状装置で、薬液を内部に注ぎ込むと霧状に変換して噴射する仕組みになっていた。
リオが早速動作テストを行うため、スプレーを持ち上げた。
「よし、動かしてみるぞ。」
レバーを押すと、霧状の薬液が勢いよく噴射された。だが、噴射が強すぎて狙った箇所に均等に広がらず、一部が溢れてしまった。
エマが苦笑しながら言う。
「これじゃ、かえって薬が無駄になっちゃうわね。」
ミリアは考え込んだ。
「噴射の勢いをもっと細かく調整できる仕組みが必要ね。あと、霧の粒子をもっと細かくする方法も考えないと。」
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改良と成功
ミリアたちは試作品を改良するため、霧を作り出す部分にマナの制御機構を追加した。また、噴射部分の構造を変え、霧が均等に広がるように設計を見直した。そして数週間後、ようやく安定して動作する試作品が完成した。
再び工房でテストを行うと、霧状の薬液が滑らかに均等に噴射され、周囲に飛び散ることもなくなった。リオが感動しながら言う。
「これはすごい! 薬が無駄にならないし、均一に広がってる!」
エマも微笑みながら頷いた。
「これなら傷口の治療だけじゃなく、広い範囲を消毒するのにも使えそうね。」
ミリアは装置を手に取り、満足そうに微笑んだ。
「これで医師たちの負担が減って、もっと多くの命が救えるはず。」
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医療現場での実演
ミリアたちは完成したマナスプレーを医師ギルドに持ち込み、実演を行った。エドワードが装置を手に取り、患者役の職員に試してみると、傷口に霧状の薬液が均等に広がり、痛みもほとんど感じない様子だった。
「すごい……! これなら短時間で広範囲を治療できるし、患者への負担も軽い!」
他の医師たちも次々と試し、装置の性能に感嘆の声を上げた。
「これは画期的だ! 感染症の予防や治療が飛躍的に楽になるぞ!」
エドワードはミリアに深く頭を下げた。
「ミリア殿、この装置はまさに医療の革命です。これを普及させれば、医療現場の環境が一変するでしょう。」
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未来への意欲
工房に戻ったミリアは、新たな発明の計画を立てていた。診断装置、そして治療用のマナスプレーが完成したことで、医療用魔道具の分野でさらなる可能性を感じていたのだ。
「次は、もっと複雑な治療をサポートできる装置を作りたい……手術用の魔道具とか。」
リオが微笑みながら言う。
「本当に休む暇がないな。でも、次も俺たちが全力でサポートするよ。」
エマも笑いながら答えた。
「ミリアならできる。医療だけじゃなく、もっと広い分野に挑戦できるはずよ。」
ミリアは二人に感謝しつつ、新たな目標に向けて心を燃やしていた。
「私の発明で、この世界のすべての人がもっと幸せに、もっと健康に暮らせるようにする。それが私の使命なんだ。」
こうしてミリアの挑戦は、さらなる高みへと向かって進み続けるのだった――。




