第1話:新田未来の転生と錬金術との出会い
新田未来は36歳という若さで命を落とした。科学界で数々の成果を挙げ、天才と呼ばれていた彼女。しかし、彼女の人生はあまりにも多忙だった。
「まだやりたいことがたくさんあるのに……」
最後に未来が思ったのはその言葉だった。研究施設からの帰路、交通事故で命を失った彼女が次に目を覚ましたのは、真っ白な空間だった。
目の前には、柔らかな光に包まれた存在が立っていた。その姿は人間のようでもあり、神秘的なオーラを放っていた。
「新田未来さん。」
その声は、どこか耳に心地よい響きを持っていた。「私は異世界の管理人です。あなたの知識と才能を、私の世界の発展のために使っていただけませんか?」
「……異世界?」
未来は混乱したが、管理人は淡々と説明を続けた。この世界には科学という概念がほとんど存在せず、人々はマナというエネルギーに依存した生活を送っている。しかし、その技術は未熟で、発展が停滞しているという。
「あなたが前世で培った科学の知識を活かせば、この世界をより豊かにすることができるでしょう。」
「でも……私はもう死んだはずなのに、どうして?」
「あなたの魂にはまだ強い未練があります。それがこの世界を変える力になると信じています。」
未来は迷った。しかし、「終わりたくない」という想いが勝り、彼女は異世界での再スタートを受け入れることにした。
「わかったわ。まだ、やりたいことがたくさんあるから。」
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気がつくと未来は、小さな体でベッドに横たわっていた。
「ここ……どこ?」
見慣れない木造の天井が広がり、周囲には質素ながらも暖かみのある家具が並んでいる。彼女の記憶は徐々に蘇り、自分が「ミリア」という名前の少女として生まれ変わったことを知った。
ミリアが生まれた家は、小さな商会を営む家庭だった。父親のエリオは、地元で細々と商売をしており、母親のリーナは家事に忙しいが優しい女性だった。新しい家族の温かさに触れながら、ミリアは異世界での新たな人生を受け入れていった。
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5歳になったある日、父親が頻繁に訪れる「地元の錬金術工房」にミリアを連れて行くことになった。
「ミリア、今日はお父さんの取引相手に会いに行く。お前も一緒に来なさい。」
「取引相手ってどんな人?」
「錬金術工房の主人だよ。面白いものをたくさん作っている人だ。」
工房の扉を開けると、そこには独特な薬品の匂いとともに、多くの道具や機械が並んでいた。中では白いエプロンを着た男性が、金属を磨いていた。彼が工房の主人、ガルドだった。
「エリオさん、ようこそ。今日はどんな相談だ?」
「いつもの取引の確認だ。それと、今日は娘を連れてきたんだ。」
ガルドはミリアを見ると、にこやかに笑った。「お嬢ちゃん、これが錬金術工房だよ。興味があるかい?」
ミリアは頷いた。そして、工房内を見回しながら、一つの魔道具に目を留めた。それは、灯りをともすためのランタンのような装置だった。だが、どこか効率が悪そうな仕組みで動いているのが目に見てわかった。
「これ、どうしてこんなに熱くなるの?」
ミリアの問いに、ガルドは驚いた表情を浮かべた。 「それはな、この装置はマナを取り込んで光を生むんだが、どうしても余ったエネルギーが熱として出てしまうんだ。」
「……エネルギーの流れが偏ってるからだと思う。ここの接続部分を改良すれば、熱が減ってもっと効率的になるんじゃない?」
幼い少女の指摘に、大人たちは一瞬、言葉を失った。ガルドは目を丸くしながらも、「本当か?」とランタンを分解し始めた。ミリアの言う通りに改良を加えると、装置は熱をほとんど発さず、より明るい光を放つようになった。
「すごい……お嬢ちゃん、どこでこんな知識を?」
「……たくさん考えたの。」
ガルドは感心しきりだった。
「ミリア、お前は天才だ。もし興味があるなら、この工房で錬金術の基礎を教えてやろう。」
「本当に?」
「ああ。ただ、錬金術は甘くないぞ。学ぶには時間も根気も必要だ。それでもやるか?」
「やる!」
こうして、ミリアは父の商会の手伝いをしながら、地元の錬金術工房で学ぶことになった。彼女は毎日新しい発見に胸を躍らせ、前世の科学の知識を活かしながら、錬金術の世界にのめり込んでいった。
「もっとたくさんの魔道具を作れるようになりたい。そうすれば、この世界の人たちの生活をもっと便利にできるはず!」
ミリアの瞳には、次なる目標に向けた強い決意が輝いていた――。