第二百五十八話 ほしい?
――こうして、体育祭が終わった。
優勝の表彰も受けて、クラスのみんなで記念撮影をして、しばらく騒いで……そうしていたらいつの間にか夕方になっていたので、もう解散となった。
一応、希望のメンバーは祝勝会でファミレスに行くらしい。
もちろん俺とひめも招待を受けた。ただ、ひめに疲労感があったので、あまり無理をしない方がいいと思って、遠慮した。
ひめも、自分自身の体力が限界に近いのを理解していたのだろう。俺が断ると、彼女は同調するように頷いていた。
彼女の疲労については、いつも一緒にいる俺だから気付いた、というわけでもない。
誰の目から見ても、ひめの消耗は明らかなのだ。表情もどこかしんどそうである。
だからクラスメイトも、祝勝会の不参加に対して何も言わなかった。みんな『お疲れ様!』とひめと俺に声をかけて帰っていった。良いクラスメイトに恵まれて感謝である。
さてさて、そんなわけで。
いよいよ体育祭も終わった。
「ひめ。帰る前に、着替えよう」
「そうですね……へくちっ」
愛らしいくしゃみだが、汗をかいて体が冷えている証明でもある。
ひめも着替えは用意していたのだろう。女子は更衣室を利用できると思うので、そちらに向かってもらおう。ちなみに男子はみんな教室で着替えろと言われていた。俺の体は他人に見せることを恥ずかしがるほどの価値もないので、さっさと教室で着替えて、待ち合わせ場所の校門に向かうことにする。
手早く着替えたので、俺の到着は当然早い。
だから、ひめを待つことになるのは予想していたのだが。
「……お。ちょうどいいタイミングだね~」
まさか、先客がいるとは思わなかった。
というか、どうしてこの人が既に到着して、俺を待ち構えていたのだろうか。
「お姉ちゃんとしての勘かなぁ。なんとなく、そろそろひめちゃんが校門に来ると感じてたの。その前によーへーが来たってことだね~」
質問する前に、ここにいた理由を説明してくれた。
いや。勘というワードで納得しろと言われても難しい気がする。まぁ、姉妹の間でしか伝わらない思念みたいなものがあるのかもしれない。
「うふふ。本当はひめちゃんからメッセージが来ただけなのは内緒にしておこうかな?」
「……そういうことか」
まぁ、そうだよな。
当然だが、二人とも帰る家が同じなのだ。送迎の車を呼ぶのなら、二人とも同じタイミングが良いので、ひめが聖さんに連絡を入れたということか。
「ん~? もしかして、ひめちゃんと二人きりになりたいと思ってたの? 残念でした~。ひめちゃんがほしいのなら、このお姉ちゃんを倒してからにしてもらおうかっ」
「別にほしいとは言ってないから」
「ふーん。じゃあ、ほしくないの?」
「ひめは物じゃないし、別に所有したいとかそういうことは考えてないというか」
「あらら。そうやって誤魔化すんだ~。『ほしい』の意味は分かってるくせに」
聖さん……やっぱり、おっとりしているように見えて変に鋭いんだよなぁ。
もちろん『ほしい』の意味はうっすらと感じ取っていた。恐らく、聖さんは『恋愛という意味』で発言していたと思うが、それをあえて気付かないふりをして、一般論を語った。
そんな俺に意味深な表情を向けている聖さん。
「仕方ないにゃぁ……いいよ」
「いいよって、何が?」
「――ひめちゃんのこと。よーへーなら、いいよ」
彼女は穏やかに笑っていた。
「よーへーなら、許す……ひめちゃんのピンチに、私よりも早く駆け付けられるあなたになら」
そう呟く彼女は、とても優しい笑顔を浮かべていた――。




