第二百五十六話 勝利の余韻
ほんの一歩。
わずかな差ではあるが、間違いなく門田が先にゴールテープを切った。
聖さんの追い上げを必死に耐えて、逃げ切った。
リレーでは俺たち一組の勝利ということになる。
つまり、それが意味することは――体育祭でも、優勝したということだった。
「よっしゃぁああああああああ!!」
クラスの男子が声を上げた。
それに呼応するように野太い声が次々と上がって、男子一同が一斉に走り終えた門田に向かって突進していく。
少し遅れて、俺もひめを抱き上げたまま門田の方に近寄ると……彼はすごく嫌そうな顔で、もみくちゃにされていた。
「門田、好きだー!」
「愛してる!!」
「よくやった!」
もみくちゃどころか、愛の言葉まで囁かれていた。
もちろん全て男子の声である。もっと言うと、運動部の悪ノリだろう。門田は全身をはがいじめにされて、手荒い祝福を受けていた。
「やめろ! むさくるしいんだよお前ら!! 汗臭いし、男にモテたくねぇよ!!」
……まぁ、たしかに門田は男友達に人気があるタイプか。
俺みたいな地味系男子にも気さくに話しかけてくれるいい奴だから、当然かな。
一方、女子たちは周囲でちょっと引いているが。
それはさておき。少し経つと興奮も落ち着いたのか、ようやく門田が立ち上がった。
「ふぅ……って、なんだよ。みんな、どうした?」
いつの間にか周囲にはクラスのみんなが集まっていて、門田を見ていた。
別に門田がリーダーというわけではない。ただ、この体育祭では彼が中心となってクラスを引っ張っていたのは明らかである。自然とみんなの視線を集めていた。
クラスの全員が、門田の言葉を待っている。
それを感じたのだろう。門田は瞬時に状況を察して、それから大きく拳を掲げた。
「お前ら、勝ったぞ!!」
「「「「うぉおおおお!!」」」
もう一度、歓声が上がる。
だが、先ほどとは違って今度は短めだ。みんな空気を読んで、門田の次の言葉を促すように歓声はすぐにやんだ。
「と、いうわけで……よくがんばったな。お疲れ様」
まずは労いの言葉をかけてから。
そして、次の言葉を繋げる前に――なぜか門田は、こちらに視線を向けた。
「特に、大空と星宮さん。二人のおかげで、なんか気合が入ったよ。ありがとうな」
……なんていい奴なんだろう。
意図的ではないだろう。門田はそこまで計算高い人間ではない。
ただ、本心からそう思ってくれているからこそ、俺たちに声をかけてくれたのだ。その気持ちがありがたかった。
ここで俺たち二人の名を出してくれたおかげで、自然と――ひめに機会を与えることができそうだ。
「……ひめ。みんなに、言いたいことがあるんだよね?」
抱き上げているひめに、あえて声をかける。
すると、彼女は小さく頷いた。ただ、不安そうに俺の襟元を握りしめているので、この状況で降りてもらうのは難しそうである。
だから、そのまま門田の隣に歩いて……みんなの注目が集まる位置に、ひめを持っていってあげた――。




