第二百五十三話 幼女の可愛さは性別に関係なく通ずる
――リレーもいよいよ終盤に差し掛かった。
ゴールラインの方に向かうと、そこには既に走り終えた同学年の面々がたくさん集まっていた。
みんな自分たちのクラスを応援している。最終競技だからか熱気もある。特に俺たちの所属する一組と、聖さんの所属する四組は優勝争いをしているので、応援にも力が入っているように見えた。
アンカーまであと数人くらいか。俺たちが所属する一組のアンカーは門田なので、彼がゴールラインを超えた時に順位は確定する。
さて、俺たちが走った中盤ではひめが転んだことで、他クラスに大きな差を広げられたのだが。
今、四組がどの位置にいるかというと――
「……追い上げてる」
少し先で走るクラスメイトを見て、少し驚いた。
まだ最下位ではある。だが、三位に大差をつけられていたはずなのに、今はもう三位の背中まで一メートル差まで迫っていた。
一位まではまだ少し差がある。
だが、この調子なら――勝負は分からない。
「ひめ。これ、勝てるよ」
「……んっ」
俺に抱き上げられているひめが、唇をキュッと結んで大きく頷いた。
その表情は、どこか祈っているようにも見えてくる。まだまだひめは、自らの過ちを引きずっているのだろう。
あるいは、ミスをしたにもかかわらず、祈ることしかできないことがもどかしいのか。
もし、そうだとしたら……もうちょっとだけ、ひめにもやれることがあることを、教えてあげようかな。
「もし良かったら、次に走るクラスメイトに声でもかける?」
直接声援を送ったら、きっとクラスメイトも喜んでくれると思う。
ただ、ひめは俺の提案に少し逡巡を見せていた。
「それは……迷惑ではないでしょうか」
「ありえない。迷惑にならないことは、俺が保証する」
その心配が杞憂であることは断言できる。
門田も言っていた。ひめみたいに可愛い子に応援されて、嬉しくない人間はいないのだ。
もちろん、性別は関係ない。ひめの愛らしさは男女問わず誰にでも元気を与えてくれるだろう。
心からそう思っているので、ひめの迷いを一蹴するように笑いかけてあげると、彼女も小さく笑ってくれた。
「えへへ。陽平くんがそう言うなら……声をかけてもいいでしょうか」
「もちろん」
「あ。でも、もう直前なので集中していたら悪い気が――」
「おーい。ちょっといい?」
ひめがごにょごにょと言い訳しかけたところで、俺からレーンで準備体操をしているクラスメイトに声をかけた。
次の走者は女子のクラスメイトである。ひめを抱っこしているからか、俺は目立っているのだろう。声をかけても驚かれることはなく、普通に返答してくれた。
「なになに?」
「ひめが言いたいことがあるって」
「えっ。星宮さんが!? な、何でも言っていいよ?」
「あ、あの……が、がんばって、ください?」
なぜ疑問形なんだろう。
ひめの声援はかなりぎこちない。人見知りはしてないと思うが、初めて話しかけるのでたどたどしくなるのも無理はないか。
もしかしたら、ひめは自分がこういう態度を取ってしまうことも予想して、声をかけるのをためらっていたのかもしれない。
しかしながら、そんなことは……些細な問題でしかないのだ。
「――か、かわよっ」
「かわよ?」
「かわよい! ぐふふ、そんな……星宮さんに応援されちゃったら、がんばらないわけにはいかないにゃ~!」
明るい人だなぁ。リアクションが陽気だ。
ひめの応援が嬉しかったのだろう。デレデレになって笑っていた。
「任せて! 私、部活内では『太巻き』ってあだ名がつく太ももの持ち主だから!」
笑っていいのだろうか。本人は笑っているが、なかなか直接的なあだ名でちょっとリアクションが難しい。ただ、当人は豪快に笑って、それから親指を立ててくれた。
「陸上部なの。走るのは得意だよ~」
その言葉を最後に、彼女はレーンの方に戻っていく。ふと顔を上げると、そろそろバトンが来るタイミングだった。
「――っ!」
バトンを受け取るや否や。
「はやっ」
思わず声が漏れた。太ももが太巻きと呼ばれるだけあって、鍛え上げられた脚力が凄まじい。
砂埃をあげながら、どんどん加速していく。走り方は、素人目に見ても綺麗だ。一切の無駄がないフォームで、三位との差があっという間に小さくなっていって――ついに、抜いた。
「ぬ、ぬきましたっ。陽平くん、ぬいてます!」
「うん。抜いた……!」
三位、どころじゃない。
二位との差もみるみる小さくなっていく。
ついに、最下位から脱した。
そしてバトンは、アンカーへと繋がれていく――。




