第二百四十七話 手加減はしない
――最終競技のクラス対抗リレーが、いよいよ始まる。
一位を取れば、俺とひめの所属する一組が優勝だ。
例年であれば、順位なんてさほど気にしないのだが……こういう行事ごとも蚊帳の外というか、いつも他人事で結果なんて考えてなかった気がする。
しかし今年は、ひめが勝ちたがっている。
姉である聖さんの所属する四組には負けたくないのだろう。待機時間の今も隣で軽くストレッチをしていて、やる気満々だった。
(……いつもと違って、少し冷静じゃないかも?)
ひめは大人びた少女だが、聖さんへの対抗心のせいでやや落ち着きがない。
それが何となく心配で、ひめを見ていると……彼女も視線に気づいたのか、こちらを見たので目が合った。
「陽平くん……少し、ドキドキしてます」
俺が、ではない。もちろんひめがドキドキしているらしい。
やっぱりそうなんだ。いつも以上に、ひめが意気込んでいる。
「ふぅ……追い抜かれないといいのですが」
「順番は中盤だから、もし越されても大丈夫だよ。後のクラスメイトが何とかしてくれると思う」
ちなみに、俺とひめのリレーの順番はちょうど真ん中くらいだ。たしか、14番目と15番目だったかな?
クラスメイトが配慮してくれたらしい。つまり、俺がひめからバトンを受け取ることになる。
「……ひめの次が俺だから、任せて。俺なりに頑張るよ」
微力にしかなれない気はする。
だが、ひめのために俺も頑張りたい。そう伝えたら、彼女は少し表情を緩めてくれた。
「それなら安心ですね……陽平くんと同じ待機場所じゃないのは、残念ですけど」
そうなんだよなぁ。
グラウンドは一周で200メートルほどあって、一人100メートルずつ走ることになっている。要するに半周走るわけだ。だから、待機場所は二ヵ所あって、偶数と奇数で異なる。
そのせいで、連番の俺とひめは待機場所が違う。
直前の様子を見られないことだけが残念だった。
「でも、待っていてくれるのは心強いです」
「うん。バトンの受け取りだけは任せて。練習もしたから大丈夫だ」
体育祭前、二人ともリレーが一番心配だったので何度も練習した。
足の速さはそこまで変わらなかったと思うが、バトンの受け渡しだけは失敗しない自信があった。
「ひめ、勝とう」
「はい。勝ちましょう」
二人とも、心の準備も万端だ。
そしていよいよ集合時間となり、ひめと別れた。彼女はグラウンドの反対側にいる。
一人でちょこんと座って、リレーの開始を待っていた。
遠目からそんな彼女を眺めていると……肩を誰かに叩かれた。
振り向くと、そこには聖さんがいた。
「やっほー。よーへーはこっちなんだ。わたしもこっちだよ~」
「うん。ひめは違うけどね」
「知ってる。さっきあっち側にいたから話しかけたけど、冷たくされちゃった」
さすが聖さん。ひめの様子もちゃんと見ている。
ただ、今は姉妹で対抗心が燃えているのだろう。いつものような平和なやり取りはできなかったらしい。
「うーん。ちょっと煽りすぎちゃったかなぁ……」
なんだかんだ、ひめほどは対抗心がないのだろうか。
聖さんは少し困ったように息をついていた。熱くなっていたことを後悔しているのかもしれない。
……不要だと思うが、一応伝えておくか。
「でも、ここで手加減するのは違うと思うよ」
わざと負ける、ということを選ぶとは思っていない。
ただ、迷いがあると全力も出せないと思うので、ちゃんと言っておいたのだ。
「遠慮なんてひめは求めていない。全力でぶつかってあげて」
それが一番、ひめの望んでいることでもあるよ。
と、伝えたら……聖さんは、分かっていると言わんばかりに大きく頷いた。
「――うん。そうだよね、手加減なんてダメだよね」
まるで、迷いを振り払うように首を振る聖さん。
それから、ギュッと拳を握って宣言した。
「よーへー。私、全力でやるからね」
「もちろん。こっちも、全力で頑張るよ」
……たとえ、負けたとしても。
全力でやることに意義がある。
ひめにもそう伝えているのだ。
だから、年上の俺たちが、手を抜くなんてことはあり得ない。
正々堂々、がんばろう。
そう、お互いに誓うのだった――。
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