第二百四十六話 最終決戦
いよいよ、最終競技を控えた現在。
俺とひめの所属する一組の順位は――『二位』だった。
「リレーで一位を取れたら、優勝ですね」
隣にいるひめの言葉で、やっぱりそうだよなと改めて気付かされる。
一位との差は4ポイント。次のリレーでは一位が10ポイント、二位が5ポイント、三位が3ポイントもらえるので……俺たちが優勝するなら、一位を取るしかない。ちなみに、三位とのポイント差も一つしかないので、諸々を考慮してもやはり一位を取るしか優勝の可能性はなさそうだ。
色々な競技で、思っていたよりうちのクラスは善戦したと思う。おかげで最終競技を控えてもまだ自力で優勝が狙える位置にいる。
だが、一位の四組との差はなんだかんだ、大きいと感じた。
恐らく、二学年では一番運動ができる生徒が多いクラスだと思う。そして、そのクラスには……あの人もいるわけで。
「……お姉ちゃんたちのクラスに勝てるでしょうか」
星宮聖。彼女の存在が、あまりにも大きかった。
普段はナマケモノのように怠惰で堕落してて言動もメンタルもゆるゆるな人なのに、スポーツの才能には恵まれているらしい。ひめが頭脳に優れているように、聖さんは身体機能が優れている……まぁ、体にメンタルが追い付いていないので、ひめいわく「宝の持ち腐れ」らしいけど。それはさておき。
とにかく、体育祭の敵としては脅威であることは変わらないだろう。
「むぅ……負けたくないですね」
ひめは先ほど負けをまだ引きずっているように見えた。
少しムキになっているというか、気負っている感じがした。
待機時間の今も落ち着かないのか、椅子に座らずに立ち上がって軽くストレッチをしている。
気合が入っているのはいいことだし、怪我防止のために準備運動も良いことだ。でも、冷静さを失っているようにも見えて、ちょっとだけ心配だった。
「大丈夫だよ。みんなでがんばったら、きっと勝てる」
安心してほしくて、慰めようと言葉を投げかけてみる。
こういう時に「俺に任せろ」と言ってあげられたら、もっとひめも安心してくれるんだろうなぁ。
残念ながら、運動においては俺も自信がないのでこれくらいのふわっとしたことしか言えなかった。
そのせいか、ひめにあまり響いていないように見える。
「はい。わたしも、120パーセントの力を出しますね」
むしろ、余計に力が入っているような気がした。
うーむ。リラックスして欲しかったのだが、難しい。どんな言葉をかけてあげたらいいのかなと、少ない語彙力の中からワードを探してみるものの、適切な言葉を見つける前に――時間がきた。
「あ、集合がかかってますね。陽平くん、行きましょうか」
二学年に号令がかかっている。ひめはまだ立ち上がっていない俺の腕をつかんで、早く行きましょうと言わんばかりにちょっと引っ張っていた。
「う、うん。分かった、行こうか」
慌てて立ち上がって、ひめのペースに合わせて歩き出す。
彼女特有の小さな歩幅は、いつもより忙しなく動いていた。
……やっぱり、ひめが気負っているように見える。
体育祭を楽しんでくれているのは良いことだ。優勝したい、という気持ちも見える。あと、聖さんに勝ちたい、という対抗心もあるように感じる。
それらの感情は決して悪いものではない。
ただ、全てを抱えたせいでいつもと様子が違っている。
そのことが、やっぱり心配だった。
何事もなく、体育祭が終わればいいんだけど――。




