第二百四十五話 小さな体でも頑張っててかわいい
「……なるほど」
意外なことに、ひめは負けても落ち着いていた。
試合中の方が熱くなっていたように見える。負けたことを悔しがるか、あるいは落ち込むかと思っていたのだが……ちゃんと結果を受け止めていた。
「やはりお姉ちゃんは強敵ですね」
やれやれと肩をすくめて、ひめは椅子にちょこんと座った。
現在、玉入れが終わったので待機場所に戻っている。ひめは疲れたようで、肩が上下させていた。
「でも、二位だったよ。ひめが頑張ったおかげだ」
聖さんには負けたかもしれないが、順位としては悪くない。一位の四組に勝てなかったことは残念だが、まだまだ優勝が狙える位置だ。
「はい、飲み物。汗もかいてるし、飲んだ方がいいよ」
そう言いながら、ひめに持ってきていたスポーツドリンクを手渡した。
もちろん新品である。カバンに何本か用意していたのだが、時間が経っているせいで少しぬるいかもしれない。でも、冷たすぎるとお腹に良くないともいうし、ちょうどいいと思っておこう。
「……ありがとうございます。いただきます」
まずは飲み物のお礼から。こういう時にかかさず感謝の言葉を伝えてくるのがひめらしくて、微笑ましい。
つい彼女の背中をさすってあげて、努力を労ってあげた。
「三位と二ポイント差だったし、かなり危なかったね」
「そうでしたね。ここで順位を落とすと一位の四組との差が広がるので、良かったです」
「ひめの活躍が効いてたよ。俺は全然ダメだったから、助かったよ」
「……えへへ。陽平くんに褒められると、不思議と元気になりますね」
あれ?
聖さんに負けたこと、あまり気にしていないように見えていたが……実はそうでもなかったのかな?
「お姉ちゃんに負けてしょんぼりしていたので、陽平くんの優しさがとても染みますね」
「そんな、しょんぼりする必要ないよ。ひめはすごかったと思うけど」
慰めるための方便とかではなく、本音だった。
というか、実際に数字で見て思ったのだが、ひめが頑張ってくれなかったらたぶん三位……いや、最下位もあり得たくらいである。
「それに、聖さんにはまだリベンジできるよ。リレーが残ってるんだから」
最終競技が、クラス対抗のリレーである。
当然、聖さんの所属する四組との勝負も残っている。ここで気落ちしているのはもったいない。
……まぁ、落ち込んだひめを見ると俺の心が痛くなるので、元気でいてほしかった。
負けたけど、身体能力の差はなかなか埋まらない。それをひめも分かっているのだろう。
「それもそうですよね。玉入れで負けたのは、ちょっと悔しかったのですが……切り替えます」
しっかりと頷いてくれた。
それから、俺が渡した飲み物をごくごくと飲み始める……両手でペットボトルを持っているのがまた、ひめの小さなサイズ感を強調していた。
愛らしいと同時に、八歳の身体で高校生の体育祭に混じっているんだな、と改めて実感する。
そう考えると、むしろ玉入れでは十二分の活躍をしてくれた。
(……最後まで俺も、全力を出そう)
ひめがこんなにも頑張ってくれているのだ。
年上の俺が手を抜いていいわけがない。そう自分に言い聞かせて、気合を入れた。
あと一時間くらいかな?
それくらいで、最終競技のリレーが始まる。
順位はどうなるか分からないが……最後まで全力で、頑張ろう――!




