第二百四十三話 子供なので、大人げはない
「じゃあ、私はそろそろ行くね! ひめちゃん、負けるんだから無理しないでね~」
聖さんはそう言い残して、ニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべながら歩き去って行った。
「うるさいです。あっちに行ってください」
ひめは「しっし」と聖さんを追い払っている。
本当に珍しいなぁ。ひめが不満そうに唇を尖らせていた。
「むぅ……お姉ちゃんはやっぱりわたしをおちょくるのがうまいです。なかなかの煽りスキルでした」
たぶん、腹を立てると聖さんの思い通りになると分かっているのだろう。
怒ったところでパフォーマンスが落ちるだけだ。いつも通り、ひめは冷静でいようと努めているものの、表情から鑑みるにあまりうまくいってはなさそうだ。
「もしかして……聖さんって、負けず嫌いなの?」
「はい。わたしには特に、負けるのが嫌みたいで……特に運動の競技では、一度たりとも勝ったことがありません」
「そ、そうなんだ」
意外だった。妹のことを溺愛しているから、勝ちを譲るくらい甘やかしているのかと思っていたら……それとこれとは話が別みたいである。
「まったく、お姉ちゃんは大人げないです」
「あはは。まぁ、聖さんの入れた個数に負けていたとしても関係ないよ。クラスの入れた個数で勝てばいいんだから」
ぷんすか、とかわいらしくご立腹のひめをなだめようと試みる。
しかし、彼女もまた聖さんと血がつながっている妹なわけで。
「いえ、負けたくないのでがんばります。わたしは子供なので、陽平くんみたいな大人っぽいことは言えませんから」
この子もまた、負けたくないみたいだ。
聖さんに対抗意識を燃やしている。普段は大人びた言動の多い子だけど、今は子供っぽくて微笑ましかった。
ひめがこんなにもやる気なのである。
これ以上、水を差すようなことを言うのも野暮か。
「分かった。じゃあ、勝とう」
「はいっ」
気合は十分。ちょうど、一学年の玉入れも終わったところで、二学年に集合の号令がかかった。
プログラムの進行が少し遅れているのだろうか。すぐに玉入れの場所に誘導された。
「ひめ、そろそろ始まるよ」
「……肩は温まっています」
ひめの準備も万端。
そして、ついに――
『スタート!』
――玉入れが始まった。
ルールなんて、今更説明する必要はないだろう。やることはシンプルに、玉をかごに入れるだけだ。
小学生の頃にみんな運動会で経験しているからだろう。迷いなく落ちている玉を拾って、かごに向かって投げつけていた。
……クラスの人数は三十。一気に投げると、なかなか壮観である。
「んっ」
おっと。勢いのすごいクラスメイトに圧倒されている場合じゃなかった。
足元でひめの声が聞こえたので、ハッとしてそちらに視線を向けた。この子も玉を拾っていた。
「ていっ」
それから、力のない掛け声と一緒に玉を投げるひめ。
ふにゃふにゃの声にしては綺麗なフォームで投じられた玉は、綺麗な弧を描いて……籠の網に触れることなく、中にストンと落ちた。
やっぱりこの子、玉入れが上手い。
いつもよりやや緊張はしていたみたいだが、練習の成果は出ていた。
「……次です」
だが、ひめは満足しない。
姉に負けたくない、という一心で次の玉を拾うためにかがんでいた。
それを見て、俺も慌てて玉を拾って投げた。
結果は……うん、外れた。やっぱり玉入れは意外と難しい。
改めて、ひめには才能があるように思う。
この調子ならたぶん、聖さんにも勝てる……と、思うのだが。
はたして、勝負の結果はどうなるのだろうか――。




