第二百四十二話 仲良しだからこそ、負けたくない
玉入れが始まるまで、あともう少しだろうか。
待機場所にはもうほとんどの生徒が集まっている。我らが一組もほとんど揃っているようで、周囲には見知った面々が集まっていた。
ただ、整列などの必要はないので、みんな思い思いに過ごしている。俺とひめみたいに友達同士で雑談している者がほとんどだが、運動部の面々は体力が有り余っているのかなぜか筋トレして体を温めていた。やる気がすごい。
……まぁ、隣にいるひめも腕をグルグルと回してウォーミングアップめいたことをしているので、やる気ではこの子も負けないかもしれない。
「陽平くん、がんばりましょうね。お姉ちゃんをぎゃふんと言わせましょう」
気合は十分だ。その姿が愛らしくて、ついほっこりしている時のこと。
「あ、いたー! ひめちゃん、よーへー、探したよ~」
背後から声をかけられた。この力の抜けるような声は、あの人のものである。
振り向くと、そこにはひめの姉の星宮聖さんがいた。俺たちを見つけたのが嬉しいのか、満面の笑みである。
いつも通り親しそうに話しかけているのだが……しかしながら、今日は彼女と敵同士なわけで。
「……なんでお姉ちゃんがいるんですか?」
「ええ!? ひ、ひめちゃんが冷たくてお姉ちゃんは悲しい……!」
ひめがツンとしていた。
つれない態度である。これから戦う相手だから、あえて素っ気なくしている気がした。ひめもなんだかんだ聖さんのことは大好きだから、姉の到来は喜んでいると思うけど。
「せっかく来たんだから、もっと優しくしてよぉ。ひめちゃんが小さいから見つけるのもたいへんなんだよっ」
「わたしは小さくありません。八歳の平均的な身長ですから」
「ぐふっ……ひめちゃんがツンツンしてて苦しい」
ひめのツンツン攻撃は聖さんに大打撃を与えていた。
聖さん、妹のことを溺愛しているからなぁ。素っ気なくされて呻いている。
うーん。さすがにちょっとだけ、可哀想な気がする。
「ひめ、えっと……」
敵同士だけど、もうちょっと優しくしてあげた方が。
そう伝えようとしたのだが、その前に聖さんがこんなことを言った。
「……で、でも、ひめちゃんに冷たくされるのもいいよねっ」
あ、そっか。聖さん、なんだかんだ楽しんでいるんだ。じゃあ何も言わなくていいや。
「陽平くん、大丈夫です。お姉ちゃんはこの程度の態度では傷つきません……こう見えて図太いんです。繊細さなんて欠片もないので、安心してください」
「繊細だもんっ。私だって乙女なんだけど!?」
「乙女はカレーにカツと唐揚げとチーズとコロッケをトッピングしません。食べすぎです」
「それとこれとは別だからっ」
乙女、か。
聖さんが乙女とはさすがに俺も言えないので、曖昧に笑ってごまかした。乙女にしては食べすぎるところがあるので、そこが改善されれば……と思うものの、たくさん食べるところは聖さんのいいところなので、乙女じゃなくていいと言うことにしておいて。
とりあえず、聖さんは何をしに来たのだろうか。
何か用事があるはずだと思って、彼女の様子を探ってみる。
「ひめちゃん、気合が入っているみたいだけどケガしないように気を付けてね」
……やっぱり、妹思いのいいお姉ちゃんだなぁ。
生徒会の仕事で忙しい中でも、ひめのことを気にしていたのだろう。合間の時間を見つけて様子を見に来た、というわけかな。
それなら、やっぱりもうちょっと聖さんに優しくてあげたほうがいいような気がするなぁ。
――と、そう思った俺がバカだった。
「ケガには気を付けてね? ひめちゃん、どうせ『負ける』んだから」
妹のことを気にかけているのは事実だろう。
ただし、その気持ちに加えて……ひめに対する闘志みたいなものも感じた。
この人、あれだ。ひめを煽りにきてるぞ!
どうりでひめの態度が冷たくなったわけだ。姉が煽りに来ていると分かっていたから、あの態度をとっていたみたいだ――。




