第二百四十一話 お姉ちゃんにだけ負けず嫌いのひめちゃん
ひめと一緒に、お昼ごはんを食べた後のこと。
すぐに午後のプログラムが始まった。種目は、全員参加の玉入れである。
玉入れなんて、小学生のころ以来なのでなんだか新鮮な気持ちだ。中学生の頃はやらなかったなぁ、なんて考えながらひめと一緒に集合場所へと向かう。
現在は一年生が熱戦を繰り広げている。終わり次第、二学年も始まるだろう。
「わたしたちのクラス、優勝もあり得る順位ですね」
待機時間、ひめが俺の袖を引っ張りながら話しかけてきた。
一ヵ月前は体育祭が憂鬱と言っていたが、今日はなんだか楽しそうである。順位も気になっているようで、こまめにチェックしているみたいだ。
「一位と僅差の二位だから、午後の結果次第では優勝できるんじゃないかな」
「はい。綱引きで一位を取れたのが大きかったです……あれで一位のクラスに負けていたら、差が広がっていましたから」
「うん。門田たちのおかげだね」
「もちろん、陽平くんのおかげでもありますよ」
これはまた、嬉しいことを言ってくれる。
ひめは俺の働きを大きく評価してくれているみたいだ。数字に見えるほどの活躍はなかったと俺自身は思っているが……まぁ、ひめが褒めてくれるのは嬉しいので、素直に喜んでおこうかな。
「玉入れ、がんばっていい順位を取りたいですね」
「うん。一緒に頑張ろう」
「はいっ。一位のクラスはお姉ちゃんがいるので、負けたくないです」
……なるほど。
やけに順位を気にしているなぁ、とは思っていたのだ。
どうやらひめは、聖さんに対抗意識を燃やしているらしい。
「運動では勝ったことがないので……千載一遇のチャンスが巡ってきました」
「聖さん、運動はできるからなぁ。ひめ、勝ったことないんだ」
「はい。だから、陽平くんも味方でいてくれるこの機会に勝っておきたいです」
……なんというか、うん。
かわいらしい小さな手で握りこぶしを作っているひめは、すごくかわいく見えた。ふんす、といつもより鼻息も荒い。珍しい一面を見てついほっこりしそうになる。
「……? 陽平くん、なんで笑っているのですか?」
「いや、なんでもないよ」
俺が笑いをこらえているのがひめは不思議だったみたいだ。首をかしげていたが、気にしないでいいよとはぐらかして、顔を上げた。
視線の先では、玉入れで戦う一年生の姿が見える。
この競技、個人的には得意でも不得意でもない。綱引きよりかは戦力になると思うので、その点は安心である。
練習もたくさんしたのだ。きっと、少しは活躍できると思う。
あと……ひめも、この競技はたくさん練習していたわけで。
「ひめ、玉入れなら聖さんに勝てるんじゃない?」
この子は『狙って入れる』という動作がどうやら得意みたいだ。
球を投げる距離こそ制限はあるが、届く範囲ならほとんど狙い通りの場所に当たるのである。
「はい。お姉ちゃんよりも多く、入れてみせます」
たぶん、ひめも自信があるのだろう。
いつもより気合が入っているように見えるのは、そのせいかもしれない。
「手を抜いたりはしません。陽平くんみたいに、一生懸命頑張っている方が……とても、素敵ですから」
……本当にこの子は、素直でいい子だなぁ。
そっか。俺の姿も見ていたからこそ、がんばろうとしてくれているんだ。
ひめの気持ちが伝わってきて、俺もまたグッとこぶしを握った。
よし、ひめがこんなにもやる気なのだ。俺だって、精一杯がんばろう――。




