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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第二百三十八話 みっともなくても

 野球部の門田を中心に円陣を組む。


「勝つぞ、お前ら!」


「「「うぉおおおおおおお!!」」」


 クラスメイトの気合は十分。なんなら同じクラスなのに俺が少し驚いたくらいには、やる気満々だった。


 と、いうことで試合が始まりそうだ。

 進行がスムーズなせいで……と表現したら、体育祭の実行委員に悪いか。ただ、進行に滞りがないこともあって、ひめに声をかけられていないことがやや気がかりである。


 一応、時折彼女のいる方向を見て確認はしている。

 ひめは綱引きが行われるフィールドのギリギリの場所にぽつんと立っていた。もう少し離れた方がいい気もするけど……まぁ、邪魔にはならない位置なので大丈夫なのか。ひめの近くには、うちのクラスの女子もいる。あのあたりにいてくれたら安心かな。


「女子も見てるぞー!」


「「「うぉおおおおおおお!!」」」」


 男子高校生だなぁ。

 俺にはない男性フェロモンをまき散らすような野太い声だった。俺にもこれくらいのエネルギーがあったらなぁ、とぼんやり思いながらスタートラインへと向かう。


 作戦はある。

 ……というと語弊を生むか。厳密にいうと俺にはなくて、クラス単位ではあるというわけだ。


 先ほど、門田達が作戦めいたことをいろいろ言っていた。だけど俺がやることはシンプルに、一番近くの綱を引っ張るだけなので、作戦なんて単語を使うことがおこがましいだろう。


 身体能力はせいぜい平均。体重もあるわけじゃないので、綱引きにおいては人数のかさまし程度の役割しか果たせない。


 つまりこの場において、俺は主役ではない。

 がんばっても、がんばらなくても、結果に大きな影響はないだろう。


 ……もしかしたら、去年までの俺ならここで少し力を抜いていたかもしれない。

 適当にやっているふりをして、この時間をやり過ごそうとしていたと思う。それくらい無気力だったし、意欲もなかった。


 だけど今年は、違う。


(――ひめが見ているんだから、精一杯がんばろう)


 たとえ、微力でしかなくても。

 どんなにがんばったところで、端役にしかなれなくても。


 それでも、力を尽くす。

 かっこよくなくてもいい。だけど、みっともない姿だけは見せたくないと覚悟を決めると同時に、綱引きが始まった。


『よーい、スタート!』


 拡声器越しの声の直後、甲高いホイッスルの音が鳴り響く。それと同時に、スタートラインから綱引きのメンバーが一斉に飛び出した。


 対面側からは当然、対戦相手が走り寄っている。様子を観察したいところだが、必死なのでその余裕はない。運動部のメンバーに少し遅れて、一番近くの綱に飛びついて……力の限りに引っ張った。


 それからのことは、あまり記憶にない。


「――っ!!」


 綱を引っ張るだけなのに、どうしてこんなに疲労するのか。

 息を止めて、踏ん張って、力の限りに綱を握って、引っ張っていたせいだろう。周りのことなんて考える余裕もなかった。


 でも、そのおかげか……俺の飛びついた綱は確保できたわけで。

 自分のエリアのラインを綱が超えると同時に、ふと周囲を見渡したら……あと一本もしっかりと確保されていた。三本中二本確保できたので、これでまずは一勝である。


「よくやった、大空!」


 大したことはやっていないけど、門田が声をかけてくれた。

 なんだかんだ、俺のことも気にかけてくれているのかもしれない。本当にいい奴だなぁ。


「ちなみに綱引きは総当たり戦だから、あと三戦あるぞ!」


「……マジか」


 五クラスの総当たり戦なら、全部で四試合あるわけで。

 一戦終わっても、まだまだ先は長そうだ。


(明日は筋肉痛だなぁ)


 今の時点でもう、全身の筋肉が悲鳴を上げている気がするのに。

 明日は間違いなく、苦痛に呻くことになるだろう。


 やっぱり手を抜いたほうが良かったかな……とはもちろん、思っていないのだが。


(ひめは……うん、楽しそうだ)


 ちらっとひめの方を見たら、嬉しそうな表情で両手を叩いていた。かわいらしく拍手している姿を見ると、全身の力がちょっとだけ抜けた。


 あの笑顔を見られたのだ。

 本当に、がんばって良かった――。

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