第二百三十七話 いいやつばっかり
グランドの隅に、長い綱が三本並んでる。
あのうちの二本を取れば勝ち、というルールなのだろう。一本の綱に割く人数の配分など、色々と策略が生まれて面白そうである。
たとえば、瞬発力のある人が即座に一本をかすめ取ったり。
あるいは、体重と筋力のある数人が少人数で時間を稼いでいる間に、他の二本に人数をかけて獲得したり。
逆に、一本は完全に捨てて残りの二本に戦力を集中したり。
もしくは、相手の人数状況を見て臨機応変に引っ張る綱を変更したり。
そういう駆け引きが生まれるんだろうなと、ぼんやり思ったわけだが。
(まぁ、俺がやれることなんて限られているんだけど)
先ほど考えたような策略は、部活に時間を捧げている運動部のみんなに任せよう。
俺のような一般生徒は、彼らの足を引っ張らないように一生懸命やるだけである。
「よし、大空も来たな。ちょっと来てくれ、作戦伝えるから!」
先ほど呼んでくれた門田が、俺の姿を見つけて再び声をかけてくれた。彼の近くにうちのクラスメイトがいるので、もしかしたら門田が体育祭では中心となってみんなをまとめてくれているのかもしれない。
「ひめ、行ってくるよ」
「はい。こちらで見てますね」
ひめが小さく手を振ったので、俺も手を振り返してから、門田の方に向かって……それからふと、クラスメイトのみんながこちらを見ていることに気付いた。
門田はもちろん、男子たちが俺を見ている。
「……な、なに?」
あまりにも見てくるので、ちょっと気まずかった。何事だろうと戸惑っていると、門田が俺の肩をガッとつかんで引き寄せてくる。
「星宮も呼んできたのか、お前?」
「え? うん、応援したいって……」
どういう意味だろう?
ひめのこと、もしかして邪魔扱いしているのだろうか。それは大いに納得いかないので、なんだか機嫌が悪くなりそうだったのだが……それはもちろん、俺の思い違いにすぎなかった。
「てめぇら、やるぞ。気合い入れろや」
「「「うぉおおおおおお!!」」」
男子たちが雄叫びを上げていた。
門田の号令で、男子たちが獣のように猛っている。ちょっと怖いくらいに。
明らかに俺とは温度差が違う。ちょっと引いていると、そんな俺を巻き込むように男子たちが駆け寄ってきた。
「大空、ナイス! 星宮さんが応援してくれる以上、俺たちに『勝利』以外の二文字は存在しない」
「そ、そんなに……!?」
「そりゃあ、いいところ見せたいだろ。あと、楽しんでほしいしな……負けてなんていられねぇよなぁ!?」
みんな、気合が入っているようである。
なんだかんだ、ひめの存在は意識していたのだろうか。
「……俺、去年は星宮と同じクラスだったんだよ。でもその時はずっと無表情で、誰とも仲良くしてなくてな。みんな、陰では心配してたんだ」
俺が困惑しているのを見てなのか、門田が補足するように説明をしてくれた。
「でも、二年に進級して、お前と仲良くなってからはよく笑うようになっただろ? みんな密かに喜んでてな……まぁ、大空はあんまり他人と話さないから知らなかっただろうけど、とにかく星宮のことは気になってたんだ」
……なるほど。みんな、なんだかんだひめのことを意識はしていたんだ。
あの子に対して、どう接していいか分からなかっただけで、心配はしてくれていたらしい。
ひめが、学校生活を楽しく過ごしてほしいと、そう願ってくれていたのかもしれない。
「だから、まぁ……星宮にも楽しんでほしいし、勝つしかないだろ!」
……なんというか、うん。
うちのクラスのみんなは、いいやつばっかりだと思った。
ひめのことを、ちゃんと思ってくれている。
そんな優しいみんなを見て、なんだか嬉しかった――。




