二巻発売特別記念SS 彼女はもう、いない
――今日、ひめがアメリカに飛び立っていった。
(……行っちゃったかぁ)
数分程前。スマホのメッセージアプリに届いた彼女のメッセージには、こう書かれている。
『今から飛行機に乗ります。陽平くん、お元気で』
スマホなどの電子機器はあまり得意じゃないみたいなので、操作も覚束ないのかひめはいつも文章が短い。スタンプはもちろん、絵文字や顔文字も使わない。簡素な一文は、ひめらしくはあるのだが……今日だけは、少し物足りないと思ってしまった
『いってらっしゃい。ひめも、楽しんで』
もちろん返信はすぐにした。実は俺も、ひめと同じようにスマホでのメッセージのやり取りはそこまで得意じゃないので、文章はだいたいこんな感じである。
いつもなら文章の文字数なんてさほど気にならない。
でも、やっぱり……うん、寂しくないと言えばウソになるだろう。
(もっと何か書けば良かったかな)
ベッドの上で、小さくため息をつく。
いつまでもこんなことを考えていても仕方ないのになぁ。
思考を切り替えるためにも、スマホを枕元に置いてから今度は窓から空を見上げた。でも、タイミング良く飛行機の姿が見えて。
(そういえば……ひめって、飛行機とか平気なのかな?)
やっぱりあの子のことを考えてしまう。そんな自分に、思わず苦笑してしまった。
誰かのことをこんなに恋しく思うなんて、初めてかもしれない。
もし、俺が物語の主人公なら。
こういう時、どうしていたんだろう。
空港まで追いかけていくとか、なんならアメリカまで一緒に行くとか、そんな行動をしていたのだろうか。
……なんて妄想をしたところで、ハッと我に返った。
(――いや、落ち着け。三週間後には帰って来るんだからっ)
そうなのである。
渡米の期間はわずか三週間。その後にはまた日本に帰ってくるし、なんなら一緒に遊ぶ約束だってしているのだ。
だというのに、長文でメッセージを送ったり、別れを寂しく思うなんて、それこそ過剰である。
(なんで今生の別れみたいになってるんだか)
感傷に浸って、物思いにふけるような事態じゃない。
大げさな自分の感情に気付いて、更に大きなため息が零れた。
「……はぁ。暇だなぁ」
まだ夏休みは始まったばかり。
去年までは、夏休み初日なんて浮かれすぎて暇を感じることはなかっただろう。
時刻は平日の正午。両親も仕事でいないので、家では一人きりである。
天気は晴れ。気温は真夏日。しかし室内は冷房でちょうどいい温度に保たれている。しかもつい先日、新作のゲームも出た。まさしく絶好のゲーム日和。家族もいないのでイヤホンすらせず、大きめのボリュームで、お菓子とジュースをお供に楽しんでいたはずなのに。
「ふわぁ……」
今年は何故か、やる気が出ない。
ゲームも買ってはいるのだが、まだ開封すらしていなかった。あくびがこぼれてきたので、目を閉じて窓に背を向けた。
ひめ……だけじゃないか。聖さんも一緒に、二人が帰ってくるまで三週間ある。たっぷり時間があるのだから、慌ててゲームしなくてもいい。というか、新作のゲームでもこの寂しさは埋まらない気がしている。
それくらい、俺にとって二人の存在は大きかったようだ。
あの二人と過ごした日々の楽しさを知ってしまったから、孤独な夏休みを退屈に思っているのかもしれない。
……そんなことを考えていたら、いつしか意識が薄くなってきた。
ちょっとだけ眠ろうかな。そう思って、目を閉じた。
彼女はもう、日本にいない。
そのことに、自分が思っている以上にショックを受けていて、なんだかびっくりである。
でも、恋しく思うからこそ……再会した時のことも、楽しみではあった。
とりあえず、ひめの旅路と海外生活に何事もありませんように。
彼女が元気でいてくれますように。
そんなことを願って、俺は夢の世界に落ちていくのだった。
ひめが帰ってくるまで、あと二十一日――。
【終わり】
いつもお読みくださりありがとうございます!
本日、二巻の発売となります。
ひめちゃんと陽平の恋の物語、ぜひ見届けてくださると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m




