第二百三十二話 パワー系聖母様
――体育祭まで、あと一週間。
学校全体も体育祭に備えて、少しずつ活気が出てきたこの頃。
放課後になるとグラウンドに出て競技の練習をするクラスや生徒を多く見かけた。
俺とひめはリレーと玉入れ以外出ないのだが、体育祭では他にも球技や競技などがいくつかあるらしい。運動が得意な生徒はここが見せ場だと言わんばかりに張り切っているし、女子たちも男子たちを応援して楽しんでいるように見える。
そんな生徒たちを遠巻きに眺めながら、少しだけ目を細めた。
眩しいなぁ。あれこそが青春だ……それに比べて俺は一人で何をやっているんだろう――と、去年までは寂しくなっていたかもしれない。
だけど今年は、違う。
俺はもう、一人じゃない。
「お姉ちゃん、見ていてください。玉入れ、結構得意なんです」
「えー。ひめちゃん、運動が苦手なくせに強がらなくてもいいんだよ~」
「本当なのですが」
数メートルほど離れた場所で、星宮姉妹がじゃれあっている。
聖さんはからかうように笑っていて、それが不服なのかひめはちょっとだけほっぺたを膨らませていた。かわいい。
聖さんは相変わらず生徒会の仕事が忙しいみたいだが、合間を縫って様子を見に来てくれたのだ。ひめは予想外の姉の登場に驚きながらも喜んでいるようで、すぐに駆け寄って行った。
「百聞は一見に如かず、です」
「ひゃ、ひゃくぶん……?」
「とりあえず、見ていてください。わたしの実力を証明しますから」
そう言ってから、ひめが玉を放り投げる。
すっかり慣れた動作で投じられた玉は、綺麗な弧を描いてかごにすっぽりと入った。
「えー!? あ、あああああのひめちゃんが……た、玉を入れてるっ!?」
「……そんなにびっくりされると、少しバカにされているみたいで釈然としません」
「ば、バカにはしてないよっ。ただ、思ったよりも強く投げられてすごいなぁって」
「練習しましたから。甘く見ないでください」
えっへん。そんな声が聞こえてくるようにひめが胸を張っている。
姉にお披露目できてご満悦なのだろう。すっかり表情がご機嫌だった。
「玉入れに限っていえば、恐らくわたしはお姉ちゃんよりも上だと思います」
「ふーん。ひめちゃん、おもしろーい。ひめちゃんが運動でお姉ちゃんに勝つことなんてありえないよ? だってお姉ちゃん、バカだからちょー元気で体も動くもーん」
「おバカなのを自称するのは自慢にならない気もしますが……まぁ、そこまで言うなら、見せてください。お姉ちゃんの実力を」
なるほど。今度は聖さんの番か。
運動においては自信があるのだろう。聖さんは力強く頷いて、ひめから玉を受けとった。
「どりゃぁああああああああ!!」
そして、玉入れにしては気合の入りすぎた怒号を張り上げて。
野球選手……いや、これはもはや槍投げとか砲丸とか投擲系の競技プレイヤーの如き豪快なフォームで、彼女は玉をぶん投げた。
『ピュン!!』
柔らかい玉が発するはずのない風切り音を響かせて、まっすぐの軌道でかごに突き進んだ玉は、
『ゴンッ!!』
かごの側面にぶつかるだけじゃ飽き足らず、そのままかご入れをなぎ倒して大きな音を響かせた。
す、凄まじいパワーである。
「……ね!」
「ね、とはなんですか? 玉を入れる競技であって、玉入れを破壊する必要はないのですが」
「こ、壊れてないもん! 倒れただけでっ」
「……そうだといいのですが」
おっとりした外見に似合わないが、聖さんってかなりのパワー系なんだよなぁ。
ちまたでは聖母様と呼ばれているのに、そのギャップがすごかった。
「あはは」
そんな姉妹を見て、無意識に笑い声をあげていた。
去年まで、こういった大きなイベントは寂しかったのだが……今年は二人のおかげで、すごく楽しめそうである――。




