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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第二百三十話 かわいすぎる策士

 ――練習を開始して一週間が経過した。

 毎日、放課後の三十分だけという短い時間ではあるものの、なんとか継続している。


 そのおかげか、少しだけひめにも成長の兆しが見えてきた。


「……ふぅ」


 まず、ランニングが五分ほど続くようになった。

 走り終えて、ひめが小さく息をつく。肩が微かに上下しているが、表情は辛そうじゃないので、運動の強度としては適切に見えた。


 速いペースではないのだが、一週間前は少し走っただけで息が切れていた。あの時と比較すると大きな進歩だと思う。


 まぁ、とはいえ……無理は禁物だ。

 ひめは今よりもさらに幼い頃はよく体調を崩していたらしい。なので、体調の変化は意識して気を付けている。


「ひめ、疲れた?」


「疲れていない……と言えば、ウソになりますが。でも、いいくらいの運動だと思います」


 そう言って、ひめは自分の体を見下ろすように視線を下げた。

 足元付近を見つめて、軽く屈伸や足踏みをしている……何を確かめているのだろうか。


「少しだけ、体力がついた気がします。以前よりも体が軽い感じがしますね」


 やっぱり、八歳だからかな?

 成長が明らかに早い。本人もそれを実感しているようだ。


「少しずつ走れるようにもなってるよね」


「そうなんですっ。前は走ろうという気分にもならなかったのですが、今は少しなら大丈夫という感覚があるんです」


 肉体の変化をひめは喜んでいるらしい。

 俺の方にすっと身を寄せてきて、いつもよりも早口で色々と報告してくれた。


「幼い頃は病気ばかりしていて、運動ができなかったので……元気になって良かったです」


「うん。俺も、ひめが元気で嬉しいよ」


「はいっ」


 嬉しそうにしているひめを見ていると、こっちまでつられて気持ちが明るくなる。

 気分が良くなったせいだろう。あと、ひめの頭の位置がちょうど良いこともあって、ついつい頭を撫でてしまった。


「……えへへ。陽平くんはちょろいです」


 すると、ひめは満足そうに笑った。


「ちょろいって、何が?」


「頭を手の近くに持っていったら、撫でてくれるので」


「……それは、引っかかったかも」


 俺の行動は既に想定済みだったらしい。

 なるほど、だから身を寄せてきたのか……撫でるのにちょうどいい位置にいることで、撫でられることを誘発したようだ。


 でも、こんなに愛らしい策士になら、いくらでも引っかかっていいだろう。


「本番は五十メートルを全力疾走、ですよね」


「うん。ひめ、走れる?」


「……まだ自信はありませんが、がんばってみます」


 一週間前は憂鬱そうだった。でも今は、ちょっとだけ前向きに見える。


「体を動かすのも、意外と悪くないかもしれません。体も元気になりますし、いいですね」


「うん。そうだね」


「まぁ……陽平くんが一緒にいてくれるからこそ、頑張れているだけなのですが」


 これまた、ひめは嬉しいことを言ってくれる。

 そんなことを言われると、いくらでも付き合いたくなるものだ。


 俺も体育祭はあまり好きじゃないのだが……ひめの成長を見守るのは、少し楽しみかもしれない。


(って、これだとなんだか運動会を楽しみにする父親みたいだなぁ)


 そのことに気付いて、つい笑ってしまった。

 聖さんがひめを溺愛している気持が分かる。俺も、ひめのことはかなり……可愛く思っているようだ――。

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