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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百七十九話 ポンコツ野郎

 性格や言動は、生活環境によって決定すると聞いたことがある。

 血縁が同じでも、違う生活環境に身を置いていれば性格は異なってくる。生き別れになった一卵性の双子の性格がまるで別人のようになることだってあるらしい。


 でも、容姿を決定するのは『血』だ。

 だから、ひめと聖さんの性格や言動が似ていたとしても、血がつながっている証拠にはならない。そう思ってしまうくらい、二人の容姿は大きく異なっている。


 前々から、そのことが気になってはいた。

 二人と接する上ではどうでもいい情報なので、聞くつもりはなかったのだが……あまりにも若々しい母親を自称する女性が目の前にいるので、その疑念が強くなったのである。


「私が二人の『義理』の母親だと思うってことかしら?」


「はい。二人の母親にしては、若すぎます」


「うーん……あらあら。困ったわね」


 やっぱり図星なのか?

 世月さんは頬に手を当てて、考え込むように唸っていた。眉尻も下がっていて、明らかに戸惑っているのが見て分かる。


「あの、答えにくいことなら無視してもらっても」


「いえ、言うわ。言いにくいんだけどね、陽平……私、四十二歳なのよ」


「……えっと」


 そんなわけないだろ。

 とは、もちろん口に出さない。その見た目でその年齢はおかしすぎる。


「正真正銘おばさんよ?」


「からかってるんですか? 二十代ですよね?」


「本当なのよ。いえ、見た目には気をつけている方だとは思うけど、まさかそんなに若く見えているなんて」


「……はい?」


 あれ?

 最初は適当なことを言っているのだと思っていた。俺の推測を煙に巻いて、はぐらかそうとしているのだとばかり。


「お世辞は聞きなれているけど……あなた、本気でそう思ってるでしょ?」


「……まぁ、はい」


「だから困るのよ。ねぇ、一応は敵対している関係性なのよ? こちらが探りを入れているとあからさまに分かっている状況で、その発言は……少し、抜けてるわね」


 ぬ、抜けてる? 俺が? いやいや、まさか。

 聖さんじゃないんだから、そんな不思議人間みたいなこと言うのはやめてほしかった。


「別に、おかしなことは言ってないと思います。世月さんなら、若々しいだなんてよく言われますよね?」


「立場上、褒められることには慣れているけれど、下心を感じ取れないほど鈍感でもないのよ。私に近づいて利益を得ようとしている小者の言葉にいちいち喜ばないわよ……参ったわね」


「え? じゃ、じゃあ俺の推測って――」


「的外れにもほどがあるわ。おバカさんね……うふふ」


 世月さんは肩を震わせていた。

 ほっぺたがハッキリとゆるんでいて……今度は目の奥まで、しっかりと笑っている。


 どうやら本気で、俺の言動が面白かったらしい。


「あなた、商談には向いてないわ。ビジネスの世界においては恰好の餌だから、人と交渉する職業にはつかないでね。ポンコツにもほどがあるわ」


「……ポンコツ、ですか?」


「ハッキリ『無能』と言わせてもらおうかしら? 才能がまったくないのよ……人を見る目には自信があるから、間違いないわ」


「そ、そうなんですか」


「私がその気になれば、あなたの感情をぐちゃぐちゃにできる自信があるわ」


「え……こわっ」


「怖いでしょう? 商売ってそういう世界だから、気をつけなさい? 騙される方が悪い世界があるってことを知っておいてね」


 なんというか、普通にショックだった。

 自分ではもう少し、しっかりした人間のつもりだったのだが……世月さんと舌戦を繰り広げらるほどの器量がなかったらしい。戦う舞台にすら上がれていない、ということだろう。


「でも、誠実な感じはいいわね。補佐する職業なんてすごく合ってるわ。私があなたを採用するなら、秘書としてかしら。裏切られる心配もないし、しっかり支えてくれる安心感もある。その点で言えば、魅力的な人材ではあるわね」


 俺が落ち込んだのを、世月さんは察していたのかもしれない。

 さっきまで警戒していたくせに、今度は慰めるようなことを言ってくれていた。


 ……我ながら、単純な人間だと思うのだが。


(普通に、嬉しいかも)


 世月さんに褒められると、なんだか気分が良かった。

 そして、俺が喜んでいることすら、この人はちゃんと見えているようで。


「あらあら。もう……腹の探り合いなんてした私が悪かったわ。こんなに、誰かと敵対することが苦手な子だなんて」


 呆れたような、面白がっているような、そんな表情を浮かべていた。

 ……まぁ、さっきよりは態度が柔らかい気がする。そのおかげか、嫌な感じがしなかった――。

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