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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第百六十九話 『子供』だと思えなくなる日

 ひめが拗ねてしまった。子供と言われたことが少し不満らしい。


「……おかしいですね。この前までは、子供扱いされても気にならないというか、むしろ嬉しかったのですが」


 そう呟いて、ひめは首を傾げていた。

 感情的にならず、論理的に自分の状態を分析しているのがなんだか面白い。


 どうやらひめは、心境の変化に戸惑いを覚えているようだ。


「人の心は複雑ですね。自分のことなのに、よく分からないです」


「ひめ……子供扱い、そんなに嫌だった?」


 実は反省していた。決して彼女を軽んじたわけではなかったのだが、『子供』というワードを使うべきではなかったと悔いている。


 もちろん、年下だからといって見下したり、自分の方が偉いと主張したかったわけではない。無意識の発言で、ひめもそのあたりは分かってくれていると思うのだが……それでも、配慮が足りなかったかもしれないな、と。


 そんなことを考えていると、ひめが慌てた様子で首を振った。


「あ、あの、陽平くんが悪いわけではないです……落ち込まないでください」


 ――ダメだな。

 ひめが罪悪感を抱いていることがすぐに分かって、俺はネガティブな思考を振り払った。


 今でこそ俺に対しては自然体でいてくれるようになったのだが、もともと彼女は他者に対して迷惑をかけたがらない気質だ。思いやりのある優しい子なのはいいことなのだが、時に配慮しすぎることもある。今も、俺の様子を見て悲しそうな声を発した。


「落ち込んではないよ。子供扱いが嫌なら、頭を撫でたりするのも控えた方がいいかなって思っただけ」


 取り繕うために、とっさに浮かんだ言葉はちょっと強引なものだった。

 たぶん、ひめも俺の心境をなんとなく察知しているだろう。賢い上に、ひめは俺のことをよく見ているのだ。ウソは通じない。


 しかし、彼女は俺が『ひめに落ち込んでほしくない』と思っている気持ちも汲んでくれる。

 だからこそ、取り繕ったことに気付かないふりをしてくれた。


「えへへ……撫でられるのは、好きです。やめないでください」


 ひめ、なんだか表情が柔らかい。

 安心したかのように、ほっぺたを緩めている。


「ごめんなさい。陽平くんを困らせてしまいましたね……でも、大切に思ってくれているのは、ちゃんと伝わってきます。それだけで、とても嬉しいです」


 やっぱり、俺の気持ちを受け止めてくれていた。

 それを喜んでくれるところが、ひめの魅力的なところだと思う。つられて、俺も笑った。


「こっちこそごめんね。俺もこんなに仲良くなれた女の子は初めてだから、どう接していいか分からなくなる時があって」


「そんな、謝る必要はありません。わたし自身、自分のことがよく分からないので……人の心は難しいですね」


 八歳にして、哲学的なことを語るひめ。

 彼女の言葉通りだった。人の心は複雑すぎて、理解することはできない。


「……陽平くんと出会って、徐々に自分が変化していることを実感しています。とても幸せな気持ちを抱くことが増えた一方で、時折悩ましい感情を抱くこともあります」


「たしかに、ひめは少しずつ変わってるかも。あ、もちろん良い意味で……かわいくなっていってる気がする」


「かわいくなっているだなんて、照れますね。やめてください」


 と、言いながらも嬉しそうに唇をもにょもにょしていた。

 俺なんかの言葉でこんなに幸せそうに笑うのだ。かわいく思わない、わけがない。


「もしかしたら、わたしも『成長』しているのかもしれません。一日ごとに、大人に近づいているのだと思います」


「うん。そうだと思うよ」


 少しずつ、大きくなっていく。

 正直なところ、まだまだひめのことは八歳の子供だとしか認識はしていない。


 でも、いつか……もっと、彼女が成長したら。

 その時はきっと、俺はひめを『子供』だとは思わなくなるのかもしれない――。

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