表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

159/253

第百五十七話 理想の『お兄さん』

 決してネガティブなことは思っていない。

 むしろ逆だ。ひめのことを愛らしく思うあまり、時折こうやって変になってしまうことがある。


 年上の人間として、もっと余裕のあるところを見せたいのだが……そんなもの張りぼての虚勢にすぎない。


 だから、攻めて嘘はつかずに素直であろう。

 ひめに対して、弱い部分を見せよう。そう思って、正直に伝えた。


 ドキドキしているのは、ひめが可愛いせいだよ――と。


「…………」


 その言葉に対して、ひめは少しの間無言になった。

 気になる。彼女は今、どんな顔をしているのだろう。嫌そうな顔は絶対にありえないので、照れているんだろうなぁ。


 きっと、かわいい表情を浮かべていると思う。おんぶしていてそれが見られないのが残念だ。


「かわいい、ですか」


 黙っていた間に平常心を取り戻したのだろうか。

 若干上ずってはいるが、思ったよりも落ち着いた声が返ってきた。


「……えへへ。かわいい、ですか」


 いや、平常心じゃないな。

 最初は取り繕うように平坦な声だったのに、今は浮かれたように弾んでいた。


 どうやら喜んでくれているらしい。


「うん。ひめは自分が思っているよりもはるかに『かわいい』っていう自覚を持った方がいいよ。俺がドキドキしちゃうくらいなんだから」


 せっかくなので、いつもより多めに褒めておいた。

 こういうことを言うのは照れくさいが、もうこの際なので思っていることはちゃんと伝えておこうと思ったのである。


「もしかしたら、ひめは俺に嫌われることを怖がっているのかもしれない。でも、それは絶対にないから安心して……たとえひめに嫌われたとしても、俺から嫌いになることはないよ」


 仮に、この子が俺を嫌いになったとするなら、その時はきっと俺に問題があるはずだ。

 こんなに素敵な少女が嫌う人間なのだ。嫌われて当然の人間性なんだな、と認識するはずだ。


 でも、逆はありえない。


 ひめ自身は、自分には悪いところがたくさんあると思っているかもしれない。

 だけど俺から見ると、ひめが思う悪いところですら魅力に感じるから不思議なものだった。


 俺がひめを嫌いになる要素なんて一つもない。


「――それこそ、ありえませんね」


 そして彼女も、俺と近いことを考えてくれていたらしい。


「わたしこそ、陽平くんを嫌いになることはありえないですよ」


 力強い声だった。

 いつもよりもハッキリとした声音で、彼女は主張している。


「こんなに、わたしを好きでいてくれる素敵な男の子なんですから」


 ……良かった。

 ひめにもどうやら、俺の気持ちは伝わっていたらしい。


 もちろん、この『好き』は異性という意味ではないだろうが。

 人として好きということなのだ――と俺は認識している。


「わたしにとって、陽平くんは理想の『お兄さん』です」


 ただ……正直なところ、迷いもあった。


(お兄さん、か)


 判断が難しい。

 お兄さんというのは、兄妹という意味合いなのか。


 あるいは、年上の男性という意味合いなのか。


 どちらにも読み取れる。

 そして、どちらに読み取るのかでひめの心情も変わってくる。


(たぶん、ひめも自覚があるわけじゃないよなぁ)


 無意識の言葉なのだと思う。

 ひめは普段、曖昧な表現を使わない。語彙力も堪能な上に、言葉遣いも流暢なので、思ったことを伝えるのが上手いのだ。


 しかし、今回に限っては無意識だからこそ、表現が曖昧になっている気がした。


(……指摘はしないでおこうかな)


 もしここで、そのことについて掘り下げたらどうなるだろうか。

 俺とひめの関係性が進む? いや、ひめが困惑して動揺する可能性の方が高いと思って、言葉を押し殺した。


 焦ってはいけない。

 話しているとあまり意識しないのだが、この子の実年齢は八歳なのである。


 だから、慎重に……ゆっくりでいい。

 今、俺が歩いているペースと同じだ。ひめと話がしたくて、いつも以上にゆっくりと廊下を歩いている。


 このペースでいい。

 俺とひめの歩く速度は、これくらい遅い方がちょうどいいだろう。


 そう思って、ひめに対する感情にはちゃんと蓋をしておいた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ