第百二十七話 餌付け
どうやら現在、新聞部が大変なことになっているらしい。
久守さんの話をまとめると、生徒会長に遠征費をもらいに行ったら、怒られた挙句にちゃんと活動しているか精査が入ったようだ。
ひとまず実績を作るために、前々から用意していたひめに関する校内新聞を慌てて作った――ということになるのだろうか。
「星宮聖先輩が仲裁してくれなかったら、もしかしたらマジで廃部だった可能性もあるっす……優しい先輩に感謝っすね」
「そうなのですか? お姉ちゃんもがんばっているのですね」
聖さんについての話題になったからなのか、ひめが少し嬉しそうに話に入ってきた。やっぱりお姉ちゃんっこだなぁ……姉の前では少し素っ気ないけど、なんだかんだ大好きな気持ちは伝わってくる。
「あの人は生徒会の癒しっすね。うちの生徒会って色々と権限を持っているせいか、結構たいへんじゃないっすか。多忙なんで遊びに行くたびにみんなイライラしてるんすけど、星宮聖先輩だけはいつも笑顔で歓迎してくれるんすよ」
「……みんなイライラしてるのに遊びに行ってるんだ」
「はいっす! 生徒会室に行ったら毎回お茶菓子がもらえるんで、おやつ時には毎日顔を出すようにしてるっす」
やっぱり図太いなぁ。他人がイライラしてても気にしないタイプらしい。
根っから明るい人なんだろう。俺は接していて気楽だと思うけど、生徒会長はたぶんそうじゃない気がする。ちょっと同情した。
「でも、明日からはテスト休み期間に入るじゃないっすか。さすがに生徒会のお仕事も休みになるみたいなんで、おやつをもらえなくて残念っす」
「……お菓子、食べたいのですか?」
あ、なるほど。
さっきからやけにお菓子の話をするなぁと思っていたのだが、それが狙いだったのか。
現在、ひめと俺は一緒に小枝のチョコレートを食べている。久守さんはそれを見て、あえてお菓子の話題を出していたわけだ。
こちらからお菓子を差し出すのをずっと待っていたのかもしれない。
「陽平くん、分けてあげてもいいでしょうか」
「うん、ひめがいいなら」
ひめに食べてほしくて買って来たものである。この子が良いのなら全く構わない。
「わたしは結構食べたので大丈夫です。陽平くんの優しさのおすそわけ、ですね」
そう言われると恥ずかしいけど。
俺の優しさではなく、ひめの優しさだと思うのだが……久守さんにとってそのあたりはどうでもいいことだったのだろう。
「いいんすか!? あざーす!」
遠慮はなかった。即座にひめから受け取って、むしゃむしゃと食べている。
すぐに一本食べ終えてしまったので、ひめが二本目をすっと差し出した。
「もう一つどうぞ」
「マジっすか!? いただきまーす!」
食いっぷりがいい。一口サイズなのだが、ひめは口が小さいので少しずつ食べていた。しかし久守さんは大口を開けて丸ごと食べている。
その勢いを見て、ひめはどこか楽しそうだった。
「……陽平くんの気持ちが、少しわかる気がします」
もう一本、久守さんにチョコレートを差し出しながらひめがこう呟いた。
「餌付けしてるみたいで癒されますね」
「餌付けとはさすがに思ってないよ……」
ひめのことをペットみたいにかわいい、とは流石に思っていない。小動物みたいでかわいいとは思うけど、そのニュアンスの違いは結構大きい気がする。
「やっぱりこの時間はおなか減るっすね! うまいっす!!」
……まぁ、久守さんは元気のいい犬みたいなので、ひめがそう思うのも無理はないのだが――。




